メタバースで今何が起きているのか。コロンブスがアメリカ大陸を発見し、ゴールドラッシュが起きた時代のように、メタバース時代は人類の大きな転換点を示しているのかもしれません。
記事のPart1では、仮想通貨やNFTなど、クリプトと呼ばれる新しい価値。これらは、我々人類の生活に一体どのように関わり合っていくのか、について語られました。
»クリプトが行き着く先は「コミュニティ」になる。伝説のVCビル・タイが語った「新時代の価値」とは?
2000年代にセカンドライフに投資を行い、CanvaやTwitterなど、さまざまな企業を生み出してきたエンジェル投資家・XTCの共同創設者でもあるBill Tai(ビル・タイ)は、「伝説のVC」とも呼ばれています。
指数関数的に成長するトレンドを見極める専門家でもあり、ZoomやDapper Labsなど、上場した20社以上の企業にエンジェル投資をしてきました。
今回は、Real VisionのCEO Raoul Pal(ラウル・パル)を聞き手に、2000年代の「セカンドライフ」から、a世代に高く支持されている「Roblox」まで、投資家としての目線から、メタバースの世界が発展するとともに、資産形態や経済の仕組みが変容しつつあることについて歴史に紐付き語った内容をお届けします。
※本記事は、2021年7月、YoutubeチャンネルReal Vision Financeで語られた内容のPart2(Part1-3)です。Youtubeでも「VC Legend Bill Tai: The “New Era” of Valuations」の題名でこちらの記事の元となった動画が閲覧できます。
記事の登場人物
Bill Tai(ビル・タイ)
エンジェル投資家、Charles River Ventures 名誉パートナー、カーティン大学非常勤教授。Extreme Tech Challenge(XTC)共同設立者。
1991年からベンチャーキャピタルとしてスタートアップに出資し、22社を上場させる。また、創業期に出資した8社の上場企業にて取締役を務める。半導体設計者としてキャリアを開始し、半導体産業の巨大企業TSMCに従事。イリノイ大学にて電子工学学士課程を優等で修了、ハーバード大学でMBAを取得。Treasure Data(ARM/Softbankが買収)、IPInfusion.com(東京証券取引所:4813)、iAsiaWorks(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレー経由でIPO)を共同設立し、Hut8 Mining(NASDAQ:HUT)の取締役会長も務める。Canva、Color Genomics、Class.com、Dapper Labs (Cryptokitties / NBA Topshot)、Safety Culture、Tweetdeck/Twitter、Zoom Videoを発掘し、創業期から伴走するシード投資家の一人。ACTAI Globalの共同設立者。環境保護・起業による経済力向上を支援するAthletes Conservationists Technologists Artists & Innovatorsを運営する。
Raoul Pal(ラウル・パル)
Real Vision Group&GlobalMacroInvestorのCEO兼共同創設者
ロンドンのGLGグローバルマクロヘッジファンドの共同マネージャーを務め、2004年にファンド管理を引退、2005年1月にGlobalMacroInvestorを設立。2008年から2009年の住宅ローン危機を予測した数少ない投資家の1人でもある。ロンドンを拠点とするヨーロッパのゴールドマンサックスで株式および株式デリバティブのヘッジファンド販売の共同責任者も務める。
メタバースは、さらに実用化する
2000年代のセカンドライフとは異なり、技術が時代に追いている
ラウル メタバースについて深掘りしていきたいと思います。この技術によって、私たち全員がより没入感のあるデジタル体験の中で生活することが可能になりました。ゲームではそれが実現できていますが、これからのメタバースの展開についてはどうお考えですか?
ビル 昨日、セカンドライフの創設者フィリップ・ローズデールとやり取りをしていました。私が2000年代にはすでにデジタル通貨に触れることになったのも、彼がきっかけです。
2000年から2001年にかけて、彼はセカンドライフを立ち上げ、セカンドライフを活性化するために私は仮想通貨のアイディアを生み、創設者のフィリップはリンデンドル(L$)をセカンドライフ内に導入しました。そして、2006年には活気のある経済がセカンドライフ内に誕生したのです。世界からも多くの注目を集めていたので、Anshe Chungというアバターがビジネスウィーク誌の表紙を飾ったこともあります。
セカンドライフ内で、「ちょっといい服を着たい、家を持ちたい」そんな要望があれば、リンデンドルでの取引が成立していました。しばらく前に知ったのですが、セカンドライフ内の取引所の一つであるIGXは、ブロック・ピアス(*3)という若者が運営していたそうです。
そして今、メタバースが、さらに現実化した世界になりました。
当時は、今よりも技術が発展しておらず、自分を表すキャラクターをつくって、歩き回って何かを探そうとするのは非常に手間がかかることでしたが、今では、インターネットを通じて、人間をバーチャル化しています。
例えば、Zoomのようなものがなかったら、このインタビュー一つとっても、飛行機に乗ってどこかに行き、スタジオで会う必要があったかもしれません。そのために費やされる時間やコストは、Zoomの手軽さに比べて比較になりません。Zoomは、ある意味、人々が自分自身を仮想化し、取引を行うことができるデジタル・マーケットプレイスのようなものなのです。現在では、2Dのアバターだけでなく、より本格的な3Dの構築物で自分自身を表現するメタバースがあります。そのインターフェースはまだ少し重いのですが、時間の経過とともにどんどん実用的なものへと進化していくでしょう。
*3:仮想通貨EOS(Block.one)共同設立者。米国の「ビットコイン財団(Bitcoin Foundation)」のチェアマンを務める。2018年フォーブスが発表した「世界の仮想通貨長者ランキング」で9位に入り、資産額は7〜10億ドル(約750〜1078億円)を超える。
“先物取引”から見る「資産の仮想化」、資産形態の変容
物品貨幣から紙幣、そしてデジタル資産へ
ラウル あるとき、任天堂の「あつまれどうぶつの森」を見て、驚愕したことを知人に伝えると、他にもメタバース空間はたくさんあることを教えてもらいました。Crypto Voxelsを見るように促され、サイトを覗いてみると、それはブロックチェーン上で展開される仮想空間、すなわちメタバースでした。
ウェブサイトをURLで開くのとは対照的に、検索するときには、座標情報を投下することができます。Crypto Voxelsで友人の座標情報に位置を合わせると、私は誰かのアートギャラリーにいて、そこでは音楽が流れ、壁にはビデオが飾られていました。そしてそれらはNFTになっていてイーサリアムで購入することができるのです。それを見て、今我々が使っている2Dのウェブサイトが存在しなくなる未来を予感したのを覚えています。
ビル 今では、あらゆるものの仮想化が進んでいます。我々はVCなので、この現象を投資の目線で紐解き、考えてみましょう。
金融市場で誰もが理解できる「資産の仮想化」の初期の例の一つは、先物取引です。
例えば、豚肉を例に考えてみましょう。農家がトラックに豚肉を積み、長時間豚肉を移動させ、取引を行うとしましょう。だけれど、せっかく運んでも口約束しかなかったら、買い手がキャンセルしてしまったときに、豚肉は帰り道で腐ってしまうというリスクがあります。そしてここから、商品価格の変動の影響を避けるリスクヘッジとして、先物取引や先渡取引が発展し始め、配達前に売ることができるようになったのです。
最終的に1980年代には、シカゴ商品取引所(CBOT)で、現物を表す紙切れが通貨として取引されるようになりました。豚肉が一回出荷されるごとに物品貨幣から通貨という紙の契約に変化して、そのものの価値が18倍から200倍へ動いたと言われています。いわば、資産を紙切れに仮想化することで、GDPを18~200倍に拡大したのです。
今起きていることは、紙の資産からデジタル資産への移行です。デジタル資産は、NBA Top Shotのように、消費に貪欲なサブコミュニティが存在するため、その通貨で交換する人々の数がより限定的になります。
物品貨幣で物々交換していた時代から現金が出現し、紙幣でものを購入するようになった時代、その時代の先物取引は、世界中のあらゆる資産を仮想化できるようになった現代を象徴するものです。今では、物品貨幣や紙幣の代わりに、その資産を表す電子証明書が取引されてます。
NBAのTop Shotのビデオクリップ一つとって考えても、デジタル証明書があります。今、物理的な資産がデジタルへと移動しているのです。オークションのように、有名なバスケットボール選手の歴史的な試合の靴や、素晴らしい美術品など。それらを所有する倉庫で認証された所有者証明書が浮かぶようになり、その作品は先物取引と同じ速度で動き回ることができるようになるのです。
例えば、メタバース内のイベントは、仮想化されたものです。
スタートアップ界隈やクリエイターがよく参加するイベントに音楽やアートなどの総合イベントである「バーニングマン」があります。バーニングマンは毎年、オフラインで実施されていますが、昨年2020年は、新型コロナウィルスの影響によりオンラインでの挑戦を余儀なくされました。私自身もこのバーニングマンのイベントでセカンドライフの創業者のフィリップ・ローズデールと一緒に、バーチャル上で近くにいる人の声が他の人よりも大きく聞こえるという「空間オーディオ」のデモを行いました。
バーチャル上で開催されたバーニングマンの中で、参加者は、実際に開催場所のプラヤに行く必要もなく、プラヤの地図や、アートインスタレーションがどこにあるのかオンラインで体験することができます。カーソルを動かしてドロップピンをクリックすると、クリックしたアーティストのスタジオに飛び込んで、そのアートをつくっている場面を、さまざまな視点からコントロールできるのです。あらゆるアートスタジオを訪れることができ、そこでは部屋の中を動き回ることも、焦点を変えることも、方向を変えることもできます。
バーチャルエコノミーで生きていく、企業に属さない「a世代」が生きる“新しい経済”
“Roblox”から見る、メタバース内での収益化
ビル このようなバーチャル技術は、非常に基本的なものですが、いつの日かあらゆるものに組み込まれているかもしれません。ヘッドセットをつければ、あなた自身がアバターになる。これらはすべて、メタバースの世界で起きているさまざまなことの、ほんの一要素にすぎません。
ラウル メタバース上で収入を得られる世界になると思っているのですが、現状どのようになっているのでしょうか?
ビル そうですね。すでにそうなっています。
セカンドライフ内で、ユーザーたちは収入を得ていました。繰り返しますが、それは初期の頃の話です。私たちの技術や経験が前に進むにつれ、10年後、あるいはさらに先には、この実態がもっと深い意味を持つようになっているでしょう。今のRobloxをプレイしている子供たちの世代の見えている世界は、その一例と言えます。(Robloxは、2021年にニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額4兆円規模。2021年4月の月間アクティブユーザーは2億人を超えている。)
Robloxを利用したことがある人はわかると思いますが、基本的にRobloxのユーザーである自分自身も経済に貢献できるプラットフォーム設計ができるのです。Robloxでは、経済とは呼ばれませんが、自分自身の世界をつくることができます。
Robloxは基本的に、子供たちがつくった世界の束で、その多くがオープンなものなので、招待を送ると誰でも入ることができます。なかには入場料がかかるものもありますが、このプラットフォームにはいくつもの世界があり、その中のユーザーは基本的にお金を稼いでいます。参加者は世界中にいて、16歳以下の年齢で、基本的にバーチャルエコノミーで生活するための訓練を受けているのです。
Robloxネイティブにあたるa世代は、出勤や会社に属する必要性を感じていないと思います。自分たちの世界、自分たちの経済をつくるためのツールが、10代に達しない年齢でコンピュータの画面上にあるのです。これは私たちの子供時代にはなかったものです。
今までは、ものをつくったり、会社に出向いたり、誰かのところでものを売ったりしなければなりませんでしたが、今は自分の仕事、自分の職場、自分の経済、自分の世界をつくるためのツールがすべて目の前にあるのです。
ラウル 「自分の世界をつくる」というコンセプトは、私が考えてきたことの一つです。
実際に私もYoutuberでもあるので、その感覚がよくわかります。影響力を獲得したことで、やりたいことがどこにいてもできるようになりました。それは、YoutubeというプラットフォームやWindowsといった2Dのバーチャル空間に限りません。そういった生き方を選択することで、生活をまったく異なるものに変化させ、生産性を高め、より自分のやりたい方法で生きている感覚があります。
ビル 自分自身にフォロワーがいることで、自分のコミュニティがあり、自分の通貨を持つことができます。「ラウル・コイン」ですら、発行しようと思えばできる世の中です。サプスクリプションであれ、ポイント制であれ、それが新しい経済の断片になるのです。こうした個々の小さな積み重ねから、 大きな生産的な一つの経済ができあがります。
それぞれ個々人の通貨がでてきたとします。それが他の場所で交換可能になり、自分のコミュニティのメンバーがいて、そのメンバーが別のコミュニティのメンバーと、ポイントやその通貨を交換したいと思うようなタイミングが来たとき、経済活動の成長率が今後10年で完全に変容する可能性があるのです。
プラットフォーム企業が創出する“経済圏”
仮想通貨などの価値を、どうGDPへ計上するのか
ラウル 実業家で投資家でもあるマーク・キューバンは、メタバースには「新しいGDP」があるのではないか、と言っていました。私も今起きていることは、アメリカ大陸の発見に近い大きな変化だと認識しているのですが、その辺りはどう思われますか?
ビル その通りですね。まだ計上されていない、まったく新しいGDPが生み出されているのだと思います。
ラウル まだ放出されてない価値だからこそ、パイが大きくなるのですね。
ビル そうです。そして、政府はそれが何であるかを把握していません。
RobloxのGDPはどう測定するのか、どの統計にも出てきません。 Robloxで消費されている時間数はわかりませんが、かなりの量です。
ラウル Epic Gamesのようなメジャーなゲームまでになると、時間の消費量は想像を超えます。
ビル そうです。Robloxの価値が交換されたりするわけですが、そのようなものをどのように計算するのか、暗号通貨の取引量や統計が、GDPの数字に含まれているかどうかはわかりません。しかし、今はドルで測れないものがたくさんあるのです。
政府は、すべてのものに税金をかけ、それを計上しようとしています。私たちは皆、世界のために貢献したいと思っているから、それは公平に行われるべきだと思います。
例えばそれが、Zyngaの牧場系ソーシャルゲーム「FarmVille」内でドルベースで何かを購入することなのか、それともRobloxで子供が別の子供のために何かをすることなのか。それらがカウントされるべきなのかどうかわかりませんが、実際にはカウントされていないのです。
こういったことが、部分的には、プラットフォーム企業が存在し、定義上、それ自体が経済であるという経済の二分化が起きている理由だと私は思います。
Apple社で働く多くの人々は、まるでApple社を自分の国のように思っています。そして、ブランドを中心とした経済が形成され、“Apple経済圏”と呼ばれています。このように、それが仮想の国として成り立っているのですから、実に奥が深いです。
ラウル 私は完全に“Apple経済圏”で生きていますね。Appleは、私に大きな価値を生み出すすべての接続ポイントを作り出してくれているので、すべてAppleに支えられていると言っても過言ではないでしょう。Facebookのような伝統的なプラットフォームでも、ネットワークでもないものですが、私にとっては無限の付加価値を生み出すプラットフォームなのです。
「メタバース」という言葉が世間を賑わせる前からセカンドライフに投資をし、ブロックチェーンによる仮想通貨の時代が来る前から、その概念を導入し、2000年代にはすでにマネタイズを実現していたビル・タイ。
このようにシリコンバレーには、指数関数的に成長するトレンドを予測する専門家としての側面を併せ持つエンジェル投資家がいるからこそ、大きなビジネスが生まれているのかもしれません。
日本のスタートアップが、ビル・タイのように力のあるスーパーエンジェル投資家と出会い、シリコンバレーという舞台から世界のエコシステムに参入できるチャンスはどのくらいあるのでしょうか。
将来的に起業を志す多くの起業家が、XTCを活用し資金調達やネットワークを得ることによって、社会的な課題の解決に向けて大きな貢献を果たす……そんなヴィジョンを思い描き、ビル・タイとヤン・ソンは、XTCを創設しました。
XTCの日本予選を勝ち抜くと、グローバルコンペでXTC創業者のビル・タイ、そしてヤン・ソンとの出会いがあります。そしてXTCのグローバル大会で2人に見出されたCanvaのように、日本のスタートアップが世界的なユニコーン企業になる未来も待っているかもしれません。
次回は、この対談の 続編「メタバース以外に成長する分野」について語られた内容をお届けします。
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