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クリプトが行き着く先は「コミュニティ」になる。伝説のVCビル・タイが語った「新時代の価値」とは?
xtc

仮想通貨やNFTなど、クリプトと呼ばれる新しい価値。これらは、われわれ人類の生活に一体どのように関わり合っていくのか。

2000年代にセカンドライフに投資を行い、CanvaやTwitterなど、さまざまな企業を生み出してきたエンジェル投資家・XTCの共同創設者でもあるBill Tai(ビル・タイ)は、「伝説のVC」とも呼ばれています。

指数関数的に成長するトレンドを見極める専門家でもあり、ZoomやDapper Labsなど、上場した20社以上の企業にエンジェル投資をしてきました。

今回は、Real VisionのCEO Raoul Pal(ラウル・パル)を聞き手に、いま指数関数的に成長する「新しい価値」とは何か、時代はどのような局面を迎えているのか、1900年代に立ち返りいまトレンドとなっている「新しい価値」に対し世界で起きていることについて歴史に紐付き語った内容をお届けします。

※本記事は、2021年7月、YoutubeチャンネルReal Vision Financeで語られた内容のPart1(Part1-3)です。Youtubeでも「VC Legend Bill Tai: The “New Era” of Valuations」の題名でこちらの記事の元となった動画が閲覧できます。

記事の登場人物

Bill Tai(ビル・タイ)
エンジェル投資家、Charles River Ventures 名誉パートナー、カーティン大学非常勤教授。Extreme Tech Challenge(XTC)共同設立者。

1991年からベンチャーキャピタルとしてスタートアップに出資し、22社を上場させる。また、創業期に出資した8社の上場企業にて取締役を務める。半導体設計者としてキャリアを開始し、半導体産業の巨大企業TSMCに従事。イリノイ大学にて電子工学学士課程を優等で修了、ハーバード大学でMBAを取得。Treasure Data(ARM/Softbankが買収)、IPInfusion.com(東京証券取引所:4813)、iAsiaWorks(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレー経由でIPO)を共同設立し、Hut8 Mining(NASDAQ:HUT)の取締役会長も務める。Canva、Color Genomics、Class.com、Dapper Labs (Cryptokitties / NBA Topshot)、Safety Culture、Tweetdeck/Twitter、Zoom Videoを発掘し、創業期から伴走するシード投資家の一人。ACTAI Globalの共同設立者。環境保護・起業による経済力向上を支援するAthletes Conservationists Technologists Artists & Innovatorsを運営する。

raoul

Raoul Pal(ラウル・パル)
Real Vision Group&GlobalMacroInvestorのCEO兼共同創設者

ロンドンのGLGグローバルマクロヘッジファンドの共同マネージャーを務め、2004年にファンド管理を引退、2005年1月にGlobalMacroInvestorを設立。2008年から2009年の住宅ローン危機を予測した数少ない投資家の1人でもある。ロンドンを拠点とするヨーロッパのゴールドマンサックスで株式および株式デリバティブのヘッジファンド販売の共同責任者も務める。

いま時代は、大規模で急速な変革へと移行している

プラットフォーム企業の台頭が、経済の転換点へ

ラウル いま世界には、自律走行車、EV、分散コンピューティング、暗号通貨、デジタル資産、遺伝子工学、遺伝子ワクチンなど、すでにアイデア段階を経て、実装されている新技術がたくさん存在しています。そしてこれから、人類史上で類を見ないような変化の時代に突入するような気がしているのです。

ZoomやDapper Labsなど、20社以上の上場した企業にエンジェル投資をされたビル氏から見て、これから時代はどのように変化していくと思いますか?

ビル 私たちは、経済のいわゆる転換点を目の当たりにしていると思います。

まず金利やPER(株価収益率)(*1)の水準で見ると、かつて経験したことのない市場サイクルの中に時代が突入しています。この市場サイクルの中で多くの利益は、大きなマーケットで高い成長を遂げる企業にもたらされるのです。そして技術的な観点から見ると、私たちは、小さなハードウェア市場における小さな変革から、消費者市場における大規模かつ急速な変革へと移行しています。

私が社会人になった1980年代は、真空管の中の電子の通り道を変えるような技術がトレンドでした。シリコンはそれなりに大きな市場でしたが、物理的に物を生産していたため、変化のスピードが遅かったのです。その後、ハードウェア・デバイス、ソフトウェアと少しずつ移行していきました。

現在では、新しいテクノロジーが実装されれば、数カ月で10億人の消費者に届くような時代です。このように市場効果が組み合わさり事業やプロダクトは成長し、市場は20年前よりも指数関数的に拡大しました。そして、その成長スピードはかつての100倍に達しています。

いま存在する企業の形態も過去のものとは完全に変化しています。私がシリコン事業に携わっていた頃、Microsoftのような企業を見ると、従業員一人当たりの時価総額がシリコン企業の10倍もあり、驚嘆したことを覚えています。独占的なポジショニングもありますが、「プラットフォーム」ビジネスとしての企業構造を考えると、他にも理由があります。

それは多くの人がこれらのプラットフォーム企業の成長に無償で関わっているということです。これは、AdobeやMicrosoftを使用するユーザーの25人から100人がそのツールを使うことでエコシステムに貢献し、結果従業員一人分の生計を立てていることになります。 オープンソースの世界では、何十億人もの人々が毎日価値を生み出し、それが特定の企業に還元されているのです。

*1:PER(株価収益率)とは、「会社の利益と株価の関係」を表し、割安性を測ることができる指標です。一般的に、『PERが低ければ低いほど、会社が稼ぐ利益に対して株価が割安である』といえます。

ラウル これは、メトカーフの法則ですね。ユーザーの数と、ユーザーがネットワークに加える価値が、こうしたものを非常に価値あるものにしています。

製品を作って市場に売る時代から、誰もが経済的利益などを生み出せるようなプラットフォームを作れる時代になり、指数関数的なネットワーク効果が生み出されるようになりました。

ビル 単なる製造から豊かな経済活動へと移行しているとも読み取れますね。より早く、より安く、より小さなデバイスを作る時代が変化しました。

コンピューターやテレビ、ラジオなどの内部に真空管を使った構造がある場合、その大きさや消費電力、機械の製造やメンテナンスにかかる費用は膨大なものです。それを指の爪ほどの小さな砂の塊であるシリコンに収めたとき、価格は天文学的に下がりました。そのため、このような新技術を取り入れた企業は、大量生産で利益を出す競争が常にあったのです。

bill

1990年代のソフトウェア産業と重なる、仮想通貨やNFTのトレンド

「IT革命」の次、「ブロックチェーン革命」でいま起きていること

ビル インターネット時代のIT革命により「情報化社会」を経て、生産性が上がり、ビット型の情報が移動する時代へと変化していきました。 これがブロックチェーン技術を用いた仮想通貨やNFTと呼ばれるものです。資産をビットの中に吸い込み、資産を移動させ、省力化することで、 実は世界的にデフレを回避しているのです。

ラウル  デジタル通貨とデジタル資産の世界では、所有権、保管、価値のすべてがデジタル完結しますね。この分野には常に目を向けていると思いますが、いまはこの領域のビジネスは、どのような進化を遂げているのでしょうか。

最近では、NFTやDefi、コミュニティ・トークナイゼーションの台頭など、さまざまなものがありますが、ビジネスの世界でどのような変化が起きると思われますか。

ビル 昨年の夏、少しだけ「NFTの小さな波が来ている」という話をしました。

そしてそれは、投資先であるDapper Labsの周辺で起きたことでした。偶然にも4年前、私はDapper Labsの筆頭エンジェル投資家の一人で、彼らがCryptoKittiesという製品を発売したのです。

デジタル資産の話に戻りますが、私が初めてビットコインに触れたのは2010年頃でした。ポケットに入れられるレベルで手収めることができて、多くの資産や情報を転送できるようになり、とても印象的でまさに驚きだったことを覚えています。これがなかったら、本物のPCをポケットに入れて持ち歩かなければならなかったでしょう。

コンピューターの要素が中央集権型から分散型に移行した1990年代末には、音楽の共有を主目的としたファイル共有サービスであるNapsterやファイル交換ソフトKazaaのようなソフトウェアが誕生し、最初の画期的で破壊的なピアツーピアの実装を目の当たりにするようになりました。

コンピューターをビル内の大型マシンから、シンフォニーの指揮者のような数百万のブレードサーバに再構築し、データの扱い方や保存方法を変えるために何かを割り当てるというのが、目に見える形で現れたのです。

分散処理技術であるHadoopが登場したときにも、さまざまなものが登場しましたが、またそれとは異なるモデルでした。

新しい時代の価値は、コミュニティに集約される

人気爆発でイーサリアムをクラッシュさせた、NFT事業 “CryptoKitties” の事例から

ビル ビットコインが登場したとき、論文ではピアツーピア通貨と呼ばれていて、スマートな分散コンピューティングの要素をポケットに入れて、小さなノードを稼働させて分散データベースを維持し、インターネットが一部のノードに爆弾を落としてもダウンしないように、ネットワークを破壊できないような方法が証明できるようになりました。

ブロックチェーンと呼ばれるこの技術では、その通貨や交換価値を支える処理が分散され、それを破壊することができず、誰もがそのシステムに参加できます。そして基本的な価値、仮想化された価値をノードにカプセル化し、いつでもボーダレスに送金できるようになりました。

現在、一般的に通貨の価値を表すものは紙のお札ですが、デジタル通貨に進むにつれて、省力化が進みます。DapperやNFTの話に戻りますが、 ピアツーピアが登場し、ネットワークでビットコインを交換できるようになったとき、独自のビットコインが何になるかというと、NFTになるのです。NFTはビットコインとの交換が可能ですが、それらはすべて独自に識別された資産です。初期の暗号通貨の波に乗りながら、Dapperの友人がCryptoKittiesをはじめたとき、そのNFTの絵柄に私は仰天しました。ちょっと変ではあるけれど、遊び心もあって、猫とインターネットは悪くない組み合わせだなと。何か根源的なものを象徴しているようにも感じました。

その後、私は全力でエンジェル投資家としてこのプロジェクトに出資しました。案の定、CryptoKittiesは数少ない省力化のユースケースとして人気を博し、その波は現在も続いています。結果的にCryptoKittiesはNFT事業として大成功を収め、一時期はイーサリアムのブロックチェーンをクラッシュさせてしまう自体にもなりました。イーサリアムはその爆発的な伸びに対して処理をしきれなかったのです。なぜイーサリアムが対応できないのか、できる限りのことを学び、チョークポイントとなるものをすべてリストアップし、独自のブロックチェーン(Flowブロックチェーン)を作り、昨年位にその独自のブロックチェーン技術をはじめました。それが結果的にNFTの仮想トレーディングカードサイト「NBA Top Shot」につながったのです。

CryptoKittiesのエクスポネンシャル(*2)について話すと、ゼロから60日後に50億のランレートにまで急速に成長したマーケットプレイスを見たことがありません。GMV取引で1日1,400万ドルになりました。

(*2)エクスポネンシャルとは、これまでテクノロジーが1の次が2、2の次が3と人間の経験則や直感に基づいてリニア(直線的)に成長していくと思われていたことに反し、1の次は2、2の次が4、4の次が8のように急速(指数関数的)に成長することです。

ラウル これは、いままでの常識に風穴を開け、新たな価値を解放したと言えますね。

ビル まさに、これこそが経済です。価値を解放することができれば、価値創造のための経済的エンパワーメントを可能にするだけでなく、安定した社会と経済の鍵にもなります。

ラウル もう一つ、私が考えているのは、論理的な結論として、おそらくこのすべての最大のユースケースの一つは、ブランドであれ、個人であれ、それが何であれ、慈善事業であっても、物事がコミュニティに集約され、価値はコミュニティに集約されていくだろうということです。

この世界で、物事はトークン化し、ノード、つまり顧客とバリュードライバーのあいだで共有のインセンティブシステムを作り、その中で皆が価値を生み出すことができるようになると、新しいレイヤーが生まれます。スポーツスターやミュージシャン、偉大なブランドなどがその例です。これは画期的なことだと思うのですが、人々はまだ気づいていないような気がします。

ビル まったくそのとおりです。

raoul

過去と同じ変化が、いま「通貨」で起きている

金本位制、紙幣、仮想通貨……コミュニティからはじまること

ビル 通貨について考えるてみると、いま起きていることは1900年代に起きていることと変わらない論理なのです。通貨と呼ばれる「紙切れ」を信頼して、やがて交換することが普通になりました。「これは一定の価値を持つもの」そうやって人々が同意し、お互いを信頼するところからはじまります。

メイフラワー号から降りた人々が、北米の森林地帯に足を踏み入れたときを思い浮かべると、手書きの地図に境界線を引いて、ここはコネチカット、ここはニューヨーク、ここはバージニアと言ったように、一緒に船に乗ってアメリカ大陸に上陸した人々は友人であり、同じ宗教だったかもしれません。そこで互いを信頼して、その取り決めが成り立ったのです。

アメリカでは、どの州も独自の通貨を定義しています。部族が何であれ、信者のグループが何であれ、価値交換をすることが可能です。基本的にはコミュニティ主導の価値交換で、これが一つのベースレイヤーです。

米ドルの台頭で短期間で消え去り27年ほど続いた金本位制、そして、さらに40年ほど続いたオイルマネー。いまでは石油を燃やすことから、電子を使って何をするかということに生産性が移っているのです。

通貨は共同体の交換であると同時に、第二次世界大戦時の生産性を蓄えたものです。第二次世界大戦後、余剰金が発生した国は石油をため込む必要がありましたが、石油を移動させたくないので、石油の購買力を表すドルをため込みました。

携帯電話を諦めるか、石油を燃やすのを諦めるか、どちらかを選べと言われたら、いまのあなたにとって重要なのは電子ですから、生産性を生み出すものが根本的に変わってきているんです。

何十年も前から、カードやサービスにポイントと呼ばれるものがついています。ユナイテッド航空のスマイル、スターバックスのポイント。これは、ある意味、自分が使うかもしれないものに対する基軸通貨なのです。ICO(新規通貨公開)が何かということの前段階の話になります。過去も未来も起きていることは同じで、何かを表すトークンには価値があると信じる利害関係者のコミュニティがあり、そのコミュニティの誰かがそれを手に入れることになるのです。

私が出資した会社の一つに、TAP Networkという会社があります。彼らはUber EatsやWarner Musicのロイヤリティプログラムを運営しています。そのプログラムで提供されるトークンを使用すると他のものとも交換が可能になります。人々のあいだで、関心が集まるコミュニティの規模が大きいほど、交差するマーケットプレイス大きく、そこには流動性があります。マーケットプレイスに流動性があれば、いつでもその価値を「通貨」という信頼に解放することができるのです。

「価値」は、ヒトやコミュニティが認識するところから生まれる

ピアツーピアの通貨、クリプト・カーレンシーでいま起きていること

ラウル この仮想通貨やNFTといった「新しい電子システム」とでも呼ぶべきものへの変化が、これまでにないペースで起きています。現在、全体のユーザー数として年率113%で成長しており、これはインターネットが同じ期間に成長したときのほぼ2倍に相当します。これは信じがたいことです。その中でもFacebookは仮想通貨Diemを投入し、35億のノードがネットワーク上に存在しています。

このように、あらゆるビジネスモデルを変革するスピードが速いことを見ると、あらゆる価値観の転換期にきているように思いますが、いかがでしょうか。

ビル そうですね。私がビットコインからブロックチェーンへの移行を考えはじめたとき、最初に感じたことは、「ピアツーピアの通貨は、かっこいい」ということでした。

それから、「この基礎となる技術で何ができるんだろう?」と思いはじめ、そのうち「資産のためのTCP/IPのようなものだ」と思うようになりました。

昔は誰かに情報を送るとき、メールではなくファックスを使っていましたよね。

紙に何か書いて機械に挿し、それをデジタル化して、独占的な通信会社を通して非常に高い料金でアナログ電話回線で送信する。そうすると受け手側が同じ内容の紙を受信できました。

いまなら、画像共有なども容易に可能になりました。スクリーンに情報を映し出し、インターネットや電子メールのインターネットを通じて転送先に落とすだけで、わずかナノ秒のあいだに向こう側に飛び出すことができるのです。このように省力化が価値を引き出します。

「クリプト技術が資産のためのTCP/IPだとしたら、何ができるだろう」と考え、6年前にネッカー島で最初のブロックチェーン・サミットを開催しました。

そこで当時、ウォールストリート・ジャーナルの世界金融担当記者で『Age Of Cryptocurrency(クリプトカーレンシー時代)』を執筆したマイケル・ケーシーを招きました。そしてマイケルが対談したがっていた相手が、エルナンド・デ・ソトという経済学者でした。

皆さんは『The Mystery Of Capital (資本の神秘)』という本を読んだことがあるでしょうか。資本主義の基本的な構成要素は何か、なぜ西洋の資本主義社会ではうまく言っても、他のところではうまくいかないのかを定義した基礎的な書籍で、これはエルナンドの著作です。

彼の論文によると、彼の思考の世界では、資本の定義は資産としての土地の所有権が明確であるかどうかにかかっているのです。もしあなたが不法占拠者なら、何も持っていないことになります。自分の所有する土地に明確な線が引かれていれば、それを銀行に持って行って抵当権を設定し、資本を調達して店をはじめることができるのです。そうすれば、ネットワーク効果で資金を活用し、それを何かに変えることができます。

私はあるとき、エルナンドに「この『資本の神秘』をソフトウェア・プログラムに変えたい」と言ったんです。「『資本の神秘』で語られる思考の世界にあるものを自動化して、ソフトウェアに蓄積できるようにして、そこに資産をロードできるようにしたい。そして、その資産をスマートコントラクトで利用し、一つのブロックチェーン上で実現したい。」と。次の瞬間、彼は「ブロックチェーンがわからない」と続けました。

最近オンラインで絨毯を買ったと言っていたので、私がやりたいことを比喩的にして、このように説明しました。「eBayがあって、MercadoLibreがあるように、その絨毯を買ったのはペルー産だったからだと思います。その絨毯が出品される前は、価値がゼロで、誰かのガレージに置いてあったかもしれない。何の価値もないものだったと想像してみて欲しい。けれど一旦、誰かが写真を撮影して説明を加え、それがネットワークに公開されると、他の人々や絨毯に関心のある人のある種のコミュニティが、その情報を見ることができるようになる。すると突然、その絨毯に価値が生まれ、数千ドルで購入されるということも起きる。ネットワークに接続されたことで、何もないところから2,000ドルの価値が生まれるのです。」

Dapper Labsのフローやアーキテクチャを考えてみると、物理的なものであれ、デジタルなものであれ、資産のデジタル認証を意味する「NFT」を持つことは非常に簡単な方法です。誰かにとって価値のあるものでも、いままで誰も知らなかったものを公開することができるのです。すると、NBAの小さな映像の瞬間が1日1,400万ドルも取引されるようになりました。

もし、UFCやヨーロッパ最大のサッカーリーグ、MLBなどNBAと同じような規模のリーグが同じことをしたらどうなるでしょうか。スポーツでもこのようにファンコミュニティは無数にあるわけですから、同じようなことが起きるかもしれませんよね。

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クリプトが行き着く先は、コミュニティへ

技術革新による効率化が進み、存在し得なかった価値が生まれる

ラウル チリズ(Socios)はご存じですか。まだ初期段階のサービスですが、スポーツクラブや選手とスポーツファンの交流を深めるプロジェクト・トークンです。例えばヨーロッパのサッカークラブがコミュニティトークンを作成したら、ユーザーはコミュニティ内で公式投票イベントの際に投票する権利が与えられたり、特別な報酬を獲得したりすることが可能になります。NFTの延長線上にあるような、コミュニティの権利のようなものです。

ビル そうですね。ブロックチェーンに基づくより効率的なネットワークで、資産を公開できるのかがポイントになります。それができれば、デジタルであるがゆえに、あらゆる種類のプロパティを割り当て、あらゆる種類のコミュニティのインセンティブやガバナンス構造を、そこにあるアイテムの周りに割り当てることができるのです。

その一部はすでに以前から表現されていて、2017年から2018年にかけて起こったICO(新規通貨公開)では、購入するトークンがある特性を持っている場合もありました。ただし、いまではアセットに特性を割り当てることができるようになったのです。

昔のビジネスを思い返して省力化について考えてみると、電子メールのためにファックスをなくしたり、暗号通貨によって送金するリードタイムを2、3日をなくすようなものです。

コミュニティ活動のためにシステムに導入される素晴らしい効率性と、その上で、これまで存在し得なかった別の種類の価値を生み出す素晴らしい機能性の両方が生まれると思うのです。

「メタバース」という言葉が世間を賑わせる前からセカンドライフに投資をし、ブロックチェーンによる仮想通貨の時代が来る前から、その概念を導入し、2000年代にはすでにマネタイズを実現していたビル・タイ。

このようにシリコンバレーには、指数関数的に成長するトレンドを予測する専門家としての側面を併せ持つエンジェル投資家がいるからこそ、大きなビジネスが生まれているのかもしれません。

日本のスタートアップが、ビル・タイのように力のあるスーパーエンジェル投資家と出会い、シリコンバレーという舞台から世界のエコシステムに参入できるチャンスはどのくらいあるのでしょうか。

将来的に起業を志す多くの起業家が、XTCを活用し資金調達やネットワークを得ることによって、社会的な課題の解決に向けて大きな貢献を果たす……そんなヴィジョンを思い描き、ビル・タイとヤン・ソンは、XTCを創設しました。

XTCの日本予選を勝ち抜くと、グローバルコンペでXTC創業者のビル・タイ、そしてヤン・ソンとの出会いがあります。そしてXTCのグローバル大会で2人に見出されたCanvaのように、日本のスタートアップが世界的なユニコーン企業になる未来も待っているかもしれません。

次回は、この対談の 続編「メタバース」について語られた内容をお届けします。

起業相談はGaiax STARTUP CAFE!

NEXTAパートナー企業の、株式会社ガイアックスは社会課題解決事業をサポートしているスタートアップスタジオです。
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クリプトが行き着く先は「コミュニティ」になる。伝説のVCビル・タイが語った「新時代の価値」とは?
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仮想通貨やNFTなど、クリプトと呼ばれる新しい価値。これらは、われわれ人類の生活に一体どのように関わり合っていくのか。

2000年代にセカンドライフに投資を行い、CanvaやTwitterなど、さまざまな企業を生み出してきたエンジェル投資家・XTCの共同創設者でもあるBill Tai(ビル・タイ)は、「伝説のVC」とも呼ばれています。

指数関数的に成長するトレンドを見極める専門家でもあり、ZoomやDapper Labsなど、上場した20社以上の企業にエンジェル投資をしてきました。

今回は、Real VisionのCEO Raoul Pal(ラウル・パル)を聞き手に、いま指数関数的に成長する「新しい価値」とは何か、時代はどのような局面を迎えているのか、1900年代に立ち返りいまトレンドとなっている「新しい価値」に対し世界で起きていることについて歴史に紐付き語った内容をお届けします。

※本記事は、2021年7月、YoutubeチャンネルReal Vision Financeで語られた内容のPart1(Part1-3)です。Youtubeでも「VC Legend Bill Tai: The “New Era” of Valuations」の題名でこちらの記事の元となった動画が閲覧できます。

記事の登場人物

Bill Tai(ビル・タイ)
エンジェル投資家、Charles River Ventures 名誉パートナー、カーティン大学非常勤教授。Extreme Tech Challenge(XTC)共同設立者。

1991年からベンチャーキャピタルとしてスタートアップに出資し、22社を上場させる。また、創業期に出資した8社の上場企業にて取締役を務める。半導体設計者としてキャリアを開始し、半導体産業の巨大企業TSMCに従事。イリノイ大学にて電子工学学士課程を優等で修了、ハーバード大学でMBAを取得。Treasure Data(ARM/Softbankが買収)、IPInfusion.com(東京証券取引所:4813)、iAsiaWorks(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレー経由でIPO)を共同設立し、Hut8 Mining(NASDAQ:HUT)の取締役会長も務める。Canva、Color Genomics、Class.com、Dapper Labs (Cryptokitties / NBA Topshot)、Safety Culture、Tweetdeck/Twitter、Zoom Videoを発掘し、創業期から伴走するシード投資家の一人。ACTAI Globalの共同設立者。環境保護・起業による経済力向上を支援するAthletes Conservationists Technologists Artists & Innovatorsを運営する。

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Raoul Pal(ラウル・パル)
Real Vision Group&GlobalMacroInvestorのCEO兼共同創設者

ロンドンのGLGグローバルマクロヘッジファンドの共同マネージャーを務め、2004年にファンド管理を引退、2005年1月にGlobalMacroInvestorを設立。2008年から2009年の住宅ローン危機を予測した数少ない投資家の1人でもある。ロンドンを拠点とするヨーロッパのゴールドマンサックスで株式および株式デリバティブのヘッジファンド販売の共同責任者も務める。

いま時代は、大規模で急速な変革へと移行している

プラットフォーム企業の台頭が、経済の転換点へ

ラウル いま世界には、自律走行車、EV、分散コンピューティング、暗号通貨、デジタル資産、遺伝子工学、遺伝子ワクチンなど、すでにアイデア段階を経て、実装されている新技術がたくさん存在しています。そしてこれから、人類史上で類を見ないような変化の時代に突入するような気がしているのです。

ZoomやDapper Labsなど、20社以上の上場した企業にエンジェル投資をされたビル氏から見て、これから時代はどのように変化していくと思いますか?

ビル 私たちは、経済のいわゆる転換点を目の当たりにしていると思います。

まず金利やPER(株価収益率)(*1)の水準で見ると、かつて経験したことのない市場サイクルの中に時代が突入しています。この市場サイクルの中で多くの利益は、大きなマーケットで高い成長を遂げる企業にもたらされるのです。そして技術的な観点から見ると、私たちは、小さなハードウェア市場における小さな変革から、消費者市場における大規模かつ急速な変革へと移行しています。

私が社会人になった1980年代は、真空管の中の電子の通り道を変えるような技術がトレンドでした。シリコンはそれなりに大きな市場でしたが、物理的に物を生産していたため、変化のスピードが遅かったのです。その後、ハードウェア・デバイス、ソフトウェアと少しずつ移行していきました。

現在では、新しいテクノロジーが実装されれば、数カ月で10億人の消費者に届くような時代です。このように市場効果が組み合わさり事業やプロダクトは成長し、市場は20年前よりも指数関数的に拡大しました。そして、その成長スピードはかつての100倍に達しています。

いま存在する企業の形態も過去のものとは完全に変化しています。私がシリコン事業に携わっていた頃、Microsoftのような企業を見ると、従業員一人当たりの時価総額がシリコン企業の10倍もあり、驚嘆したことを覚えています。独占的なポジショニングもありますが、「プラットフォーム」ビジネスとしての企業構造を考えると、他にも理由があります。

それは多くの人がこれらのプラットフォーム企業の成長に無償で関わっているということです。これは、AdobeやMicrosoftを使用するユーザーの25人から100人がそのツールを使うことでエコシステムに貢献し、結果従業員一人分の生計を立てていることになります。 オープンソースの世界では、何十億人もの人々が毎日価値を生み出し、それが特定の企業に還元されているのです。

*1:PER(株価収益率)とは、「会社の利益と株価の関係」を表し、割安性を測ることができる指標です。一般的に、『PERが低ければ低いほど、会社が稼ぐ利益に対して株価が割安である』といえます。

ラウル これは、メトカーフの法則ですね。ユーザーの数と、ユーザーがネットワークに加える価値が、こうしたものを非常に価値あるものにしています。

製品を作って市場に売る時代から、誰もが経済的利益などを生み出せるようなプラットフォームを作れる時代になり、指数関数的なネットワーク効果が生み出されるようになりました。

ビル 単なる製造から豊かな経済活動へと移行しているとも読み取れますね。より早く、より安く、より小さなデバイスを作る時代が変化しました。

コンピューターやテレビ、ラジオなどの内部に真空管を使った構造がある場合、その大きさや消費電力、機械の製造やメンテナンスにかかる費用は膨大なものです。それを指の爪ほどの小さな砂の塊であるシリコンに収めたとき、価格は天文学的に下がりました。そのため、このような新技術を取り入れた企業は、大量生産で利益を出す競争が常にあったのです。

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1990年代のソフトウェア産業と重なる、仮想通貨やNFTのトレンド

「IT革命」の次、「ブロックチェーン革命」でいま起きていること

ビル インターネット時代のIT革命により「情報化社会」を経て、生産性が上がり、ビット型の情報が移動する時代へと変化していきました。 これがブロックチェーン技術を用いた仮想通貨やNFTと呼ばれるものです。資産をビットの中に吸い込み、資産を移動させ、省力化することで、 実は世界的にデフレを回避しているのです。

ラウル  デジタル通貨とデジタル資産の世界では、所有権、保管、価値のすべてがデジタル完結しますね。この分野には常に目を向けていると思いますが、いまはこの領域のビジネスは、どのような進化を遂げているのでしょうか。

最近では、NFTやDefi、コミュニティ・トークナイゼーションの台頭など、さまざまなものがありますが、ビジネスの世界でどのような変化が起きると思われますか。

ビル 昨年の夏、少しだけ「NFTの小さな波が来ている」という話をしました。

そしてそれは、投資先であるDapper Labsの周辺で起きたことでした。偶然にも4年前、私はDapper Labsの筆頭エンジェル投資家の一人で、彼らがCryptoKittiesという製品を発売したのです。

デジタル資産の話に戻りますが、私が初めてビットコインに触れたのは2010年頃でした。ポケットに入れられるレベルで手収めることができて、多くの資産や情報を転送できるようになり、とても印象的でまさに驚きだったことを覚えています。これがなかったら、本物のPCをポケットに入れて持ち歩かなければならなかったでしょう。

コンピューターの要素が中央集権型から分散型に移行した1990年代末には、音楽の共有を主目的としたファイル共有サービスであるNapsterやファイル交換ソフトKazaaのようなソフトウェアが誕生し、最初の画期的で破壊的なピアツーピアの実装を目の当たりにするようになりました。

コンピューターをビル内の大型マシンから、シンフォニーの指揮者のような数百万のブレードサーバに再構築し、データの扱い方や保存方法を変えるために何かを割り当てるというのが、目に見える形で現れたのです。

分散処理技術であるHadoopが登場したときにも、さまざまなものが登場しましたが、またそれとは異なるモデルでした。

新しい時代の価値は、コミュニティに集約される

人気爆発でイーサリアムをクラッシュさせた、NFT事業 “CryptoKitties” の事例から

ビル ビットコインが登場したとき、論文ではピアツーピア通貨と呼ばれていて、スマートな分散コンピューティングの要素をポケットに入れて、小さなノードを稼働させて分散データベースを維持し、インターネットが一部のノードに爆弾を落としてもダウンしないように、ネットワークを破壊できないような方法が証明できるようになりました。

ブロックチェーンと呼ばれるこの技術では、その通貨や交換価値を支える処理が分散され、それを破壊することができず、誰もがそのシステムに参加できます。そして基本的な価値、仮想化された価値をノードにカプセル化し、いつでもボーダレスに送金できるようになりました。

現在、一般的に通貨の価値を表すものは紙のお札ですが、デジタル通貨に進むにつれて、省力化が進みます。DapperやNFTの話に戻りますが、 ピアツーピアが登場し、ネットワークでビットコインを交換できるようになったとき、独自のビットコインが何になるかというと、NFTになるのです。NFTはビットコインとの交換が可能ですが、それらはすべて独自に識別された資産です。初期の暗号通貨の波に乗りながら、Dapperの友人がCryptoKittiesをはじめたとき、そのNFTの絵柄に私は仰天しました。ちょっと変ではあるけれど、遊び心もあって、猫とインターネットは悪くない組み合わせだなと。何か根源的なものを象徴しているようにも感じました。

その後、私は全力でエンジェル投資家としてこのプロジェクトに出資しました。案の定、CryptoKittiesは数少ない省力化のユースケースとして人気を博し、その波は現在も続いています。結果的にCryptoKittiesはNFT事業として大成功を収め、一時期はイーサリアムのブロックチェーンをクラッシュさせてしまう自体にもなりました。イーサリアムはその爆発的な伸びに対して処理をしきれなかったのです。なぜイーサリアムが対応できないのか、できる限りのことを学び、チョークポイントとなるものをすべてリストアップし、独自のブロックチェーン(Flowブロックチェーン)を作り、昨年位にその独自のブロックチェーン技術をはじめました。それが結果的にNFTの仮想トレーディングカードサイト「NBA Top Shot」につながったのです。

CryptoKittiesのエクスポネンシャル(*2)について話すと、ゼロから60日後に50億のランレートにまで急速に成長したマーケットプレイスを見たことがありません。GMV取引で1日1,400万ドルになりました。

(*2)エクスポネンシャルとは、これまでテクノロジーが1の次が2、2の次が3と人間の経験則や直感に基づいてリニア(直線的)に成長していくと思われていたことに反し、1の次は2、2の次が4、4の次が8のように急速(指数関数的)に成長することです。

ラウル これは、いままでの常識に風穴を開け、新たな価値を解放したと言えますね。

ビル まさに、これこそが経済です。価値を解放することができれば、価値創造のための経済的エンパワーメントを可能にするだけでなく、安定した社会と経済の鍵にもなります。

ラウル もう一つ、私が考えているのは、論理的な結論として、おそらくこのすべての最大のユースケースの一つは、ブランドであれ、個人であれ、それが何であれ、慈善事業であっても、物事がコミュニティに集約され、価値はコミュニティに集約されていくだろうということです。

この世界で、物事はトークン化し、ノード、つまり顧客とバリュードライバーのあいだで共有のインセンティブシステムを作り、その中で皆が価値を生み出すことができるようになると、新しいレイヤーが生まれます。スポーツスターやミュージシャン、偉大なブランドなどがその例です。これは画期的なことだと思うのですが、人々はまだ気づいていないような気がします。

ビル まったくそのとおりです。

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過去と同じ変化が、いま「通貨」で起きている

金本位制、紙幣、仮想通貨……コミュニティからはじまること

ビル 通貨について考えるてみると、いま起きていることは1900年代に起きていることと変わらない論理なのです。通貨と呼ばれる「紙切れ」を信頼して、やがて交換することが普通になりました。「これは一定の価値を持つもの」そうやって人々が同意し、お互いを信頼するところからはじまります。

メイフラワー号から降りた人々が、北米の森林地帯に足を踏み入れたときを思い浮かべると、手書きの地図に境界線を引いて、ここはコネチカット、ここはニューヨーク、ここはバージニアと言ったように、一緒に船に乗ってアメリカ大陸に上陸した人々は友人であり、同じ宗教だったかもしれません。そこで互いを信頼して、その取り決めが成り立ったのです。

アメリカでは、どの州も独自の通貨を定義しています。部族が何であれ、信者のグループが何であれ、価値交換をすることが可能です。基本的にはコミュニティ主導の価値交換で、これが一つのベースレイヤーです。

米ドルの台頭で短期間で消え去り27年ほど続いた金本位制、そして、さらに40年ほど続いたオイルマネー。いまでは石油を燃やすことから、電子を使って何をするかということに生産性が移っているのです。

通貨は共同体の交換であると同時に、第二次世界大戦時の生産性を蓄えたものです。第二次世界大戦後、余剰金が発生した国は石油をため込む必要がありましたが、石油を移動させたくないので、石油の購買力を表すドルをため込みました。

携帯電話を諦めるか、石油を燃やすのを諦めるか、どちらかを選べと言われたら、いまのあなたにとって重要なのは電子ですから、生産性を生み出すものが根本的に変わってきているんです。

何十年も前から、カードやサービスにポイントと呼ばれるものがついています。ユナイテッド航空のスマイル、スターバックスのポイント。これは、ある意味、自分が使うかもしれないものに対する基軸通貨なのです。ICO(新規通貨公開)が何かということの前段階の話になります。過去も未来も起きていることは同じで、何かを表すトークンには価値があると信じる利害関係者のコミュニティがあり、そのコミュニティの誰かがそれを手に入れることになるのです。

私が出資した会社の一つに、TAP Networkという会社があります。彼らはUber EatsやWarner Musicのロイヤリティプログラムを運営しています。そのプログラムで提供されるトークンを使用すると他のものとも交換が可能になります。人々のあいだで、関心が集まるコミュニティの規模が大きいほど、交差するマーケットプレイス大きく、そこには流動性があります。マーケットプレイスに流動性があれば、いつでもその価値を「通貨」という信頼に解放することができるのです。

「価値」は、ヒトやコミュニティが認識するところから生まれる

ピアツーピアの通貨、クリプト・カーレンシーでいま起きていること

ラウル この仮想通貨やNFTといった「新しい電子システム」とでも呼ぶべきものへの変化が、これまでにないペースで起きています。現在、全体のユーザー数として年率113%で成長しており、これはインターネットが同じ期間に成長したときのほぼ2倍に相当します。これは信じがたいことです。その中でもFacebookは仮想通貨Diemを投入し、35億のノードがネットワーク上に存在しています。

このように、あらゆるビジネスモデルを変革するスピードが速いことを見ると、あらゆる価値観の転換期にきているように思いますが、いかがでしょうか。

ビル そうですね。私がビットコインからブロックチェーンへの移行を考えはじめたとき、最初に感じたことは、「ピアツーピアの通貨は、かっこいい」ということでした。

それから、「この基礎となる技術で何ができるんだろう?」と思いはじめ、そのうち「資産のためのTCP/IPのようなものだ」と思うようになりました。

昔は誰かに情報を送るとき、メールではなくファックスを使っていましたよね。

紙に何か書いて機械に挿し、それをデジタル化して、独占的な通信会社を通して非常に高い料金でアナログ電話回線で送信する。そうすると受け手側が同じ内容の紙を受信できました。

いまなら、画像共有なども容易に可能になりました。スクリーンに情報を映し出し、インターネットや電子メールのインターネットを通じて転送先に落とすだけで、わずかナノ秒のあいだに向こう側に飛び出すことができるのです。このように省力化が価値を引き出します。

「クリプト技術が資産のためのTCP/IPだとしたら、何ができるだろう」と考え、6年前にネッカー島で最初のブロックチェーン・サミットを開催しました。

そこで当時、ウォールストリート・ジャーナルの世界金融担当記者で『Age Of Cryptocurrency(クリプトカーレンシー時代)』を執筆したマイケル・ケーシーを招きました。そしてマイケルが対談したがっていた相手が、エルナンド・デ・ソトという経済学者でした。

皆さんは『The Mystery Of Capital (資本の神秘)』という本を読んだことがあるでしょうか。資本主義の基本的な構成要素は何か、なぜ西洋の資本主義社会ではうまく言っても、他のところではうまくいかないのかを定義した基礎的な書籍で、これはエルナンドの著作です。

彼の論文によると、彼の思考の世界では、資本の定義は資産としての土地の所有権が明確であるかどうかにかかっているのです。もしあなたが不法占拠者なら、何も持っていないことになります。自分の所有する土地に明確な線が引かれていれば、それを銀行に持って行って抵当権を設定し、資本を調達して店をはじめることができるのです。そうすれば、ネットワーク効果で資金を活用し、それを何かに変えることができます。

私はあるとき、エルナンドに「この『資本の神秘』をソフトウェア・プログラムに変えたい」と言ったんです。「『資本の神秘』で語られる思考の世界にあるものを自動化して、ソフトウェアに蓄積できるようにして、そこに資産をロードできるようにしたい。そして、その資産をスマートコントラクトで利用し、一つのブロックチェーン上で実現したい。」と。次の瞬間、彼は「ブロックチェーンがわからない」と続けました。

最近オンラインで絨毯を買ったと言っていたので、私がやりたいことを比喩的にして、このように説明しました。「eBayがあって、MercadoLibreがあるように、その絨毯を買ったのはペルー産だったからだと思います。その絨毯が出品される前は、価値がゼロで、誰かのガレージに置いてあったかもしれない。何の価値もないものだったと想像してみて欲しい。けれど一旦、誰かが写真を撮影して説明を加え、それがネットワークに公開されると、他の人々や絨毯に関心のある人のある種のコミュニティが、その情報を見ることができるようになる。すると突然、その絨毯に価値が生まれ、数千ドルで購入されるということも起きる。ネットワークに接続されたことで、何もないところから2,000ドルの価値が生まれるのです。」

Dapper Labsのフローやアーキテクチャを考えてみると、物理的なものであれ、デジタルなものであれ、資産のデジタル認証を意味する「NFT」を持つことは非常に簡単な方法です。誰かにとって価値のあるものでも、いままで誰も知らなかったものを公開することができるのです。すると、NBAの小さな映像の瞬間が1日1,400万ドルも取引されるようになりました。

もし、UFCやヨーロッパ最大のサッカーリーグ、MLBなどNBAと同じような規模のリーグが同じことをしたらどうなるでしょうか。スポーツでもこのようにファンコミュニティは無数にあるわけですから、同じようなことが起きるかもしれませんよね。

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クリプトが行き着く先は、コミュニティへ

技術革新による効率化が進み、存在し得なかった価値が生まれる

ラウル チリズ(Socios)はご存じですか。まだ初期段階のサービスですが、スポーツクラブや選手とスポーツファンの交流を深めるプロジェクト・トークンです。例えばヨーロッパのサッカークラブがコミュニティトークンを作成したら、ユーザーはコミュニティ内で公式投票イベントの際に投票する権利が与えられたり、特別な報酬を獲得したりすることが可能になります。NFTの延長線上にあるような、コミュニティの権利のようなものです。

ビル そうですね。ブロックチェーンに基づくより効率的なネットワークで、資産を公開できるのかがポイントになります。それができれば、デジタルであるがゆえに、あらゆる種類のプロパティを割り当て、あらゆる種類のコミュニティのインセンティブやガバナンス構造を、そこにあるアイテムの周りに割り当てることができるのです。

その一部はすでに以前から表現されていて、2017年から2018年にかけて起こったICO(新規通貨公開)では、購入するトークンがある特性を持っている場合もありました。ただし、いまではアセットに特性を割り当てることができるようになったのです。

昔のビジネスを思い返して省力化について考えてみると、電子メールのためにファックスをなくしたり、暗号通貨によって送金するリードタイムを2、3日をなくすようなものです。

コミュニティ活動のためにシステムに導入される素晴らしい効率性と、その上で、これまで存在し得なかった別の種類の価値を生み出す素晴らしい機能性の両方が生まれると思うのです。

「メタバース」という言葉が世間を賑わせる前からセカンドライフに投資をし、ブロックチェーンによる仮想通貨の時代が来る前から、その概念を導入し、2000年代にはすでにマネタイズを実現していたビル・タイ。

このようにシリコンバレーには、指数関数的に成長するトレンドを予測する専門家としての側面を併せ持つエンジェル投資家がいるからこそ、大きなビジネスが生まれているのかもしれません。

日本のスタートアップが、ビル・タイのように力のあるスーパーエンジェル投資家と出会い、シリコンバレーという舞台から世界のエコシステムに参入できるチャンスはどのくらいあるのでしょうか。

将来的に起業を志す多くの起業家が、XTCを活用し資金調達やネットワークを得ることによって、社会的な課題の解決に向けて大きな貢献を果たす……そんなヴィジョンを思い描き、ビル・タイとヤン・ソンは、XTCを創設しました。

XTCの日本予選を勝ち抜くと、グローバルコンペでXTC創業者のビル・タイ、そしてヤン・ソンとの出会いがあります。そしてXTCのグローバル大会で2人に見出されたCanvaのように、日本のスタートアップが世界的なユニコーン企業になる未来も待っているかもしれません。

次回は、この対談の 続編「メタバース」について語られた内容をお届けします。

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