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第2の仮想世界「メタバース」へ。90年代から現在までの投資とテクノロジーの世界
xtc

XTC 2022 ASEAN-Korea Regional Competitionにて、XTC創設者のヤン・ソンとビル・タイは、XTCのボードメンバーでもありNXP社のCTO ラース・レーガーとともに、パネルディスカッションを開催しました。テーマは「パーパス・ドリブンの技術革新を通じて、より良い世界を実現するため」。今回はそのときの映像を元に、XTCが今後テクノロジーの新時代にどのように発展していくのか「メタバース」を実現する具体的な技術をお話しするとともにご紹介します。

※Youtubeでも「XTC 2022 ASEAN-Korea: Keynote by Young Sohn & Panel Discussion」の題名でこちらの記事の元となった動画が閲覧できます。

記事の登場人物

young

Young Sohn(ヤン・ソン)
Walden Catalyst Ventures 創業者・マネージングパートナー、Harman international industries 取締役会長、元サムスン電子株式会社 代表取締役社長 兼 最高戦略責任者、カリフォルニア大学イノベーションカウンシル アドバイザー。Extreme Tech Challenge (XTC)共同設立者。

シリコンバレーの起業家であり、世界をより良く変える可能性を秘めたビジネスの構築と新技術の育成に情熱を注いでいる。直近では、サムスン電子の社長兼最高戦略責任者を務め、グローバルなイノベーション、投資、新規事業創出の戦略を主導し、80億ドルでのハーマン買収の陣頭指揮を執った。シリコンバレーの上場企業2社でCEOを務めたほか、Arm社、Cymer社(ASML)などで取締役を務める。CEOおよび取締役としてのリーダーシップのもと、PLX Technologies、Synnex Technologies、Inphiを上場させる。また、Berkeley Lights、Fungible、Zoom、Graphcore、TTTech Autoなど、革新的な企業のシード投資家でもある。また、未公開株式会社Silver Lake Partnersのシニアアドバイザー、Cadence社の取締役を務める。

Bill Tai(ビル・タイ)
エンジェル投資家、Charles River Ventures 名誉パートナー、カーティン大学非常勤教授。Extreme Tech Challenge(XTC)共同設立者。

1991年からベンチャーキャピタルとしてスタートアップに出資し、22社を上場させる。また、創業期に出資した8社の上場企業にて取締役を務める。半導体設計者としてキャリアを開始し、半導体産業の巨大企業TSMCに従事。イリノイ大学にて電子工学学士課程を優等で修了、ハーバード大学でMBAを取得。Treasure Data(ARM/Softbankが買収)、IPInfusion.com(東京証券取引所:4813)、iAsiaWorks(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレー経由でIPO)を共同設立し、Hut8 Mining(NASDAQ:HUT)の取締役会長も務める。Canva、Color Genomics、Class.com、Dapper Labs (Cryptokitties / NBA Topshot)、Safety Culture、Tweetdeck/Twitter、Zoom Videoを発掘し、創業期から伴走するシード投資家の一人。ACTAI Globalの共同設立者。環境保護・起業による経済力向上を支援するAthletes Conservationists Technologists Artists & Innovatorsを運営する。

Lars Reger(ラース・レーガー)
NXP 副社長 兼 CTO。

Rheinische Friedrich-Wilhelms-Universitätで物理学の学位を取得し、ロンドンビジネススクールでMBAを取得。1997年にプロダクトエンジニアとしてSiemensSemiconductorsでキャリアを開始。Infineon Technologies にて、プロセスおよび製品エンジニアリング部門の責任者、モバイルシステムチップのプロジェクトマネージャー、IP管理のディレクションを担当。Continentalでは、コネクティビティビジネスユニット内のビジネス開発と製品管理を担当。2008年NXP入社、2012年自動車部門の最高技術責任者に就任、2018年12月NXPのCTOに就任、テクノロジーポートフォリオ全体を担当している。NXPでは、自動車、インダストリー4.0、IoT、モバイル、コネクティビティ、インフラストラクチャに重点を置いた市場での新しいビジネス活動と研究開発の管理を務める。

コンピューティング第5の波、テクノロジーの新時代へ

ヤン 今回は、コンピューティング第5の波の領域についてお話しします。テクノロジーをどのように使うと、より多くのユーザーにとって役立つものが生み出せるのかということについてです。例えばAIを使えば、より安価な技術や分析を可能にすることができるでしょう。いままでの資本市場は、私たちに利益と環境汚染をもたらし、同時にテクノロジーを飛躍的に進化させてきました。テクノロジーは人間に驚きをもたらし、それは人類をより良く進化させる善なるものになるのだと信じています。そしてこの考えが、現在私の投資パートナーでもあるベンチャーキャピタリストのビル・タイとともに、Extreme Tech Challnege(以降、XTC)を世界的に拡大する理由の根底にあります。起業家たちを巻き込み「テクノロジーを駆使し、イノベーションを加速させる」。そうやって、このXTCの重要なミッションに参加してもらうことにつながっているのです。

テクノロジーを駆使し、イノベーションを加速させる「XTC」

ヤン 私たちは、国連事務総長Ban Ki-moon(パン・ムーン)の支援を受け、2019年にXTCの第1回となる地区大会を開催しました。約2年の活動で、我々は19以上の受賞者と113地域のファイナリストを生み出してきました。

今年、グローバルで3750社の中から優勝した2社のうちの1社は、Dot inc.(ドットインク)という韓国のスタートアップです。彼らは2019年の第1回韓国大会で初出場し、2020年の第1回韓国大会で優勝、XTCグローバルファイナルに進出し、グランプリを獲得しました。

この企業のCEOであるEric King(エリック・キング)は、触覚表示技術を使って視覚障がい者にサービスを提供し、デジタル・モバイル・クラウド機能を使えるようにすることを個人的な使命としています。彼らの技術は、韓国では釜山地下鉄や教育省などにも展開されており、韓国の大統領の前でプレゼンテーションするほど注目されています。

XTCは、ドットインクのエリックのような優れたイノベーターに、世界の主要な投資家との接点やメディア露出の機会を提供しています。そして、素晴らしい技術を世に生み出す起業家をさらに輩出することができるのだと信じています。

昨年のグローバル大会優勝者は、カナダのトロントから600万ドルの契約を獲得しました。この企業は、バイオマテリアル技術を使い廃棄物や有毒物質の代替品を提供しています。昨年9月のXTC ASEAN-KOREAの受賞企業の1つであるThree Billion(スリー・ビリオン)は、今年の春に3000万ドルの資金調達を行いました。ユーラシア大陸の市場における、このような革新的なスタートアップを世界に紹介し、他の起業家たちの模範となり、インスピレーションを与える場としてもXTCは機能しています。

インテルやサムスン、マイクロソフトといった企業スポンサーや、ベンチャーキャピタルの方々は、いま「持続可能性」や「社会的インパクト」に強い関心を持たれています。彼らに対しても、スタートアップのアイデアからメジャーなアイデアまで、新たなイノベーションに向かう架け橋となることができるでしょう。

世界中の視線が変化を見せている「社会的インパクト投資」

ビル 世界の企業は持続可能性の課題を受け入れる準備ができていると思います。多くの人は、パーパス・ドリブンのスタートアップは投資対象としてふさわしくないと考えているようですが、その考えは変わりつつあるでしょう。

私がベンチャーの世界に入ったのは、1991年のことでした。まだハードウェア中心の時代です。90年代には、サステナビリティや環境にプラスになる投資をすると言うと、当然損をすると思われ、資本を追うのも難しく、資金提供に値し興味深い事業を見つけるのも大変なものでした。また当時、Kleiner Perkins(クライナー・パーキンス)のような先見の明のある投資家も、持続可能な環境関連に焦点を当てたファンドを設立していましたが、この種のビジネスがまだ資本集約的だった時代、社会課題解決を試みた人々の投入したその資金の多くは、ソーラー企業に注ぎ込まれていたのです。

世界の企業が持続可能性の課題を受け入れる準備ができたことのもう一つの理由は、過去40〜50年にわたり私たちが地球を汚染し、さまざまなものを破壊してきたことを憂慮する社会的風潮があります。それが私たち人類が取り組まなければならない最重要課題に迫っている理由です。国連は持続可能な開発目標の設定について声高に主張しており、その流れにそって、このXTCを設立しました。

IoT、スマートコネクトの世界で起きていること

ラース 各企業もCSRの目標に真剣に取り組んでいるため、お話しいただいた需要が実際に高くあります。人々が気候変動などを憂慮する気運が高まっていることを背景に、当社にも、多くの金融投資家による環境関連の研究開発に対する資金が集まっています。私たちが提供するプロダクトを受け取る側となる顧客の「地球をより良く変えることができるデバイスを買う」といった意識は今後もさらに高まるでしょう。

飛行機など使わずにでも人と面と向かって会話するのを可能にしたビデオ通話と同じような理屈で、当社が提供する電子機器の一部は、二酸化炭素排出量の削減に役立っています。

ヤン それは、スマートセンサーを搭載したパワーマネジメント・チップによって電力を削減できるIoT(Internet of things)製品ですね。ラース氏がCTOを務めるNXP社は、時価総額560億ドルの企業です。サムスンなどのパートナーでもあります。ここ数年、パンデミックにもかかわらず高い成長を見せていますが、CTOといった役割から、どのようなイノベーションがいま起こっているのか、ぜひお聞かせください。NXP社は、どんな未来を描き、どこへ向かっているのでしょうか。私たち投資家が投資すべき対象はどういったものがあるのでしょう。

ラース 業績指標としてではなく、アナリストがポートフォリオや企業の能力に寄せる期待としてNPX社の株価を見てみると、過去10年間で20倍近くになっています。これは、NXP社がスマートコネクテッドデバイスを作るためのほぼ完全なポートフォリオがあり、これらのスマートコネクテッドデバイスが、この地球上の電子機器の次の10年に必要とされるからです。

私たちはいま、オンデマンドの世界から移行しつつあります。 携帯電話でタクシーやピザを注文するようなオンデマンドの世界から、予測し自動化する世界へと移行しているのです。

アナリストは、2025年までにスマートコネクテッドデバイスが500億台、10年後には1,000億台になると予測しています。私たちがいますべきことは、これらのスマートコネクテッドデバイスを、インテリジェントスピーカー、スマートカー、スマート冷蔵庫、スマート製造ロボットなどとつなげた際に、すべて超省エネルギーであるかどうかを確認する必要があるということです。そうでなければ、エネルギー効率の悪いスマートデバイスは、スマートデバイスとは言えませんからね。そして、プロダクトが環境を感知し、クラウドに接続し、スマートなアドバイスを考え、みずから適応することが求められます。つまり、「感じる」「つなぐ」「行動する」が、すべてのスマートコネクテッドデバイスに求められる要素なのです。

例えば事故を回避するための自律走行車には、完璧なレーダー・センシングが必要です。NXP社のコア・ドメインの一つである高解像度レーダーは、超低消費電力のエネルギー効率の高いマイクロコントローラで、エネルギー効率の高いスマート・コネクティビティを実現するために、Wi-Fi をベースステーションに接続してからクラウドに接続します。フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェは、当社のバッテリー管理システムを使用しています。これは、NXP社が電気自動車のバッテリー管理において非常に高い精度を持っているためで、この高い精度が、より長い走行距離、住宅用のエネルギー変換といった「スマートコネクティビティ」と呼ばれるものにつながっているのです。つまり、「事故を回避して安全性を高めること、エネルギー消費量を減らすこと、利便性を高めること」これらの三つがスマートセンサーにおける基本的なメガトレンドです。

ヤン 私は半導体業界の出身なので、こういった技術が、単に消費電力の大きいCPUの速度を上げるだけでなく、大きな社会的インパクトを与えるために使われているということがとても嬉しいです。私たちはいまよりスマートなセンシングとデータを作り、その過程で私たちの生活が向上しています。半自動運転やスマートシティなどは、すべてNXP社が貢献している素晴らしい例だと思います。

ビルももともとは半導体の専門家です。私たち二人は一つの財団を設立し、その後、それぞれ別の分野へと発展していきました。ビルと私は20年以上の付き合いで、XTCの設立と運営から、投資を通じてさまざまな企業の立ち上げにも携わってきました。私たちは非常に早い段階からZOOMへ関わり、共に投資も行っています。ZOOMは、私たちの生活に大きな影響を与え、人々のコミュニケーションを向上させたツールの一つです。ZOOMの世界的な広がりは、みなさんもご存じのところでしょう。

スマートフォンが現れた、シリコンの時代。量子の時代にくるものとは?

ヤン ビル、今後どのような企業が登場するのか、またパーパス志向で大きなインパクトを与えることができるのかどうか、どう思われますか。

ビル まず、ラース氏を今回お呼びした背景からお話ししたいと思います。私たちは皆、かつての「シリコンの時代」を経験しています。世界のほとんどの人々にとって舞台裏にあるものでしたから、どんな流れがあったかは多くの人にとって未知のものでしょう。このシリコンの時代に、技術革新が始まり、持続可能な段階へと移行したとき、価値を提供する産業としてめざましい成長を遂げました。 電子を効率的に操ることができるようになったのは、まさにシリコンがあったからだったのです。

シリコンが出てくる前には、電球のようなものを使っていました。電球の束でノートパソコンを作って、ロジックを動かしていたとします。電球が点灯しているときは「1」、消灯しているときは「0」。そのように、かつては巨大な部屋並の大きさの技術は、いまや持ち運べるレベルのコンピュータになりました。電子を動かすことからビットを動かすことへと移行し、それが電話網に忍び込んで、紙切れを吸収できるようになり、ファクスの代わりに電子メールを送るようになり、情報が1つ1つに分割されるようになりました。そして、インフラが普及し、その上で何でも動かすことができるようになり、ビットはいまや分子を表すようになりました。それらのビットは、スクリーンに映し出され、瞬時にリアルタイムで世界のどこへでも行けるのです。

テクノロジーはいまや、シリコン企業数社からコンピュータ企業数社に影響を与え、世界中のすべての人に届く電話回線から、ラース氏が話したIoTデバイスを含むその回線に触れるすべてのものにまで広がり、分子や車や建物のアプリケーションに効率化のレベルを落とし込むことができるようになりました。例えば、電話網が回線交換式からiPhoneへ進化を見せたように、スマートビルディング、教育、廃棄物の削減、食品や製品のサプライチェーンなど技術の進化によってさまざまな場所でさまざまな変化が起こっています。

電話するときは、電話交換手がいて、受け手側に向けてケーブルをつなぎ合わせるというような昔の映像を見たことがある方もいるのではないでしょうか。電話で声を届けるためには、文字通り当時は壁にプラグを差し込んで、異なる局をつなぐための電線の束があったのですが、そのような電線の束は、さらに細かく切り刻まれて、たくさんの通話を多重化した分子たちに置き換わりました。そう考えると、当時と比較すると技術の力によって大きく効率化がなされ、かなり便利な時代を我々は生きているということがわかりますよね。

ヤン 当時の電子技術は、実に素晴らしい革新だと思います。現代では、原子と呼ばれる新しい分野があります。 量子コンピューティングは、これまでとは異なる、より高度なコンピューティングを可能にするものだと言われています。 従来のコンピューティングでは不可能なアプリケーションで、より高いパフォーマンスを発揮することが可能です。

量子コンピュータのような新しいパラダイムは、基本的に1と0の2進法です。量子コンピューティングになると、その間に多くの量子ビットが入ってきて、非常に複雑な連立方程式を実行できるようになり、従来では不可能だった問題を解決できるようになります。

その間に多くの量子ビットを得て、複雑な連立方程式を実行できるようになり、問題を解決できるようになります。量子コンピュータのような新しいコンピューティングパラダイムは、より大きく複雑な問題への挑戦を、低い消費電力で実現できる可能性があります。量子領域は、非常に注目している新しい分野でもあります。この新しいアプローチは、将来的に計算の方法すらも変えるでしょう。

XTCは、産業を変革する画期的な技術革新を提供するスタートアップのための最大のマーケットでもあります。7月22日に開催されたコンペティションでは、約100カ国から3,700件を超える応募がありました。ラース氏はその審査にも努めていらしたわけですが、今後最も期待する新技術は何でしょうか。クリーンテック、フィンテック、スマートシティ、モビリティなど、さまざまな分野での例を挙げてください。

ラース 先ほどあったビル氏の話のように、時代が電話からIoTへ変化していることに加え、ロボティクス技術もさらに発展すると予測しています。

現在、自動車のイノベーションの95%は、スマートエレクトロニクス、コンフィギュラブルエレクトロニクス、言い換えればプログラム可能なエレクトロニクス、ロボティクスがあります。特にヘルスケアの分野で、スマートロボットが人々の能力をカバーするためにどのようなことができるかということに興味をそそられています。私は物理学の勉強をする傍ら、数年間医学の勉強もしてきました。若いエンジニアの頃は医療機器を作りたいとも思っていたのです。これからはXTCを活用し、再びその分野に全力で取り組んで行きたいですね。

テクノロジー新時代、成功するスタートアップの3つの特徴

ビル このコンテストから生まれたものには、素晴らしいものがたくさんありますね。しかし、一般的に言えば、問題解決にテクノロジーを応用することで、私たち人類は進歩することができるのです。例えばZOOMのような、成功している技術系のスタートアップを考えてみると、共通点が3つあります。1つは、使用する際の摩擦を減らすために技術を応用できていること、2つ目は、非常に再現性の高い技術を使用していること、3つ目は、信じられないほどの拡張性を持つバックエンドを備えていることです。

2020年のXTCの決勝戦には7社の企業が参加しました。その中でも2社、素晴らしい企業がありました。特に、Microgen(マイクロジェン)という企業には、目を見張りました。小さなバクテリアの溶液に植物の種を浸すと、植物が成長するにつれて根がコーティングされ、重金属やその他のものをろ過してくれます。そして、結果として土壌の浄化を可能にするのです。50年、100年前から、私たちは工業化された経済社会の中で、生産性のためにさまざまなことを行ってきた結果、食物を育てる土地を文字通り汚染し、毒していることにまったく気づいていませんでした。

ウォールマートもガーバーも、カドミウムや重金属が食品に含まれているとして訴えられています。これは、赤ん坊の脳障害を引き起こす原因となるものなのです。マイクロジェンはそれらの問題を大規模に解決することができます。

そしてもうひとつは、コロンビアにあるTOMi(トミ)という企業です。いまや誰もがカメラやデバイスを持ち、Wi-Fiやブルートゥーススピーカーなどを通じて携帯電話に接続できるようになりました。彼らの技術を利用すると、24時間、授業を管理し、子どもたちを採点することが可能になります。学校の仕事のやり方を完全に変えるもので、小さなハードウェアデバイスを作ってこれを実現しています。このサービスは教育用Canvaのようなもので、教師陣も毎月2万人のペースで増加しています。

このようにシリコンバレーでは見たこともないようなものが、このXTCから生まれてきているのです。

ヤン 素晴らしい例ですね。2021年の受賞者をはじめ、多くの企業にも当てはまると思います。その中でも、注視すべきは、先ほどお話しした韓国のドットインクという会社、そしてもう一つは、オーストラリアの会社でHillridge technology(ヒルリッジ・テクノロジー)があります。衛星からの天気予報を見て、直前の災害の可能性に基づき、「Insurtech」と呼ばれる低価格帯の保証を提供しています。これによって直前の災害を想定し、リスクマネジメントを行うことができるのです。データ、AI、予測分析が物事の行方を教えてくれるので、非常に拡張性のあるイノベーションの一例です。このビジネスは、過去に洪水やその他の自然災害の被害にあって利益を得られなかった多くの小規模農家にも適用できるかもしれません。

私たちは、このように起業家たちが素晴らしいアイデアを共有していることを目の当たりにできて、嬉しく思っていますし、とても光栄に思っています。私たちの仕事は、これから生まれる素晴らしいイノベーションを生み出している起業家を教育することです。そして他のスタートアップにもこのコミュニティに参加してもらうことができると信じ、同時にこの活動を楽しんでいます。

シムシティ、セカンドライフ、ZOOM…テクノロジーの力で時代ごとに解像度を高めるメタバースの世界

ヤン いま私自身も関心が高まっているメタバースの領域について話題を少し変えてみたいと思います。韓国は20年前、ある意味でオンライン仮想世界「セカンドライフ」をリードしていました。そして、人々が自分自身を表現するための遊び場を提供することができていたのです。 メタバースは、まったく新しい体験、新しい経済、新しい経験を生み出すものです。人々は喜んでこの仮想世界に参加し、他の友人たちと出会い、そのコミュニティ内で遊ぶことができます。

時代をさかのぼると、1990年代のシミュレーションゲーム「シムシティ」を思い起こさせるものでもありますが、メタバースについて何かコメントはありますか?

ビル そうですね。フェイスブックがオキュラスリフトを使ったメタバース製品を発表する3日前のことです。ちょうど2週間前の日曜日、実はZOOMのCEOであるEric S. Yuan(エリック・ユアン)と一緒にいたんです。私たちは彼の子供たちをサーフィンのレッスンから連れ出すために一緒に出かけていました。

エリックはその数週間前、スナップチャットからダウンロードできる写真を添えてツイートを投稿をしていたんです。スナップチャットには何種類ものフィルターがあり、そのフィルターを通してアニメなどのキャラクターを選び、ZOOMにも参加できます。その時の会話の中で、エリックにこんな話をしました。「今日、どれだけの会議があるか知らないけれど、1億から数億の会議がZOOM上で開催されている。だからZOOMはもはやメタバース空間なんだよ。」と。実はいまや誰もが、すでにアニメキャラクターとしてもこの仮想空間に入ることができるのです。a世代の何億人もの子供たちは、ロブロックスやマインクラフトなどですでに何年もの時を過ごしています。自分のアバターでサーバーにアクセスすることは、夏休みには1日のうち3、4時間にもなるのですから、人類がこれからメタバースに移行すること自体は、とても自然な流れなのです。

20年前のセカンドライフと同様に、ここにはすでに経済があります。2003年にセカンドライフという仮想世界で、私はアラン・グリーンスパン・ゴーレムになりきって、仮想通貨の概念リンデンドル(L$)を導入しました。そのため、ビットコインが始まるずっと前から、すでに仮想通貨にたどり着いていたのです。

ニール・ステフェンソンのSF小説「スノー・クラッシュ」というものがあります。フィリップ・ローズデールがセカンドライフを設立する際に、彼はその「スノー・クラッシュ」を現実の世界で作ると言っていました。私はそれは難しいのではと言いましたが 彼はやり遂げてみせたのです。

そして、現代で何が起こっているかというと、第2の仮想世界が始まっていて、現実世界のためのデジタルインターフェースがあり、抽象化された分散型サーバーの集合であるロブロックスをはじめとしたアプリケーションやプラットフォームが出現しているのです。もはやこれは、すでに私たちはメタバースの中にいるといってもいいものでしょう。そして、それは、いままでよりももっとクレイジーで楽しいものになるはずです。

仮想世界 第2の波「メタバース」、それを支える技術

ヤン 私たちはこの旅の始まりにいるんですね。ビル氏は、ロブロックスなどのアプリケーションについても話に触れましたが、その背後にある技術については、ラース氏からもお話をお聞きしましょう。

クラウドとモバイル、そしてユーザー・インターフェースの間を可能にしているものについて、その背後にあるもの、推進しているものについてコメントをお願いします。このメタバースを可能にするためには、非常に多くの物理学的な要素が必要とされますが、それが広く認知されていないように感じます。その点については、いかがでしょうか?

ラース まず、私は自宅では普段3人のヘビーゲーマーの父親でもあるんです。スポーツといったらリアルでするものという感覚が個人的にはあるのですが、彼らはスポーツひとつとっても、現実世界のスポーツではなく、メタバース上へアクセスし、そこでプレイする選択肢も持ち出します。

何年か前に、レッドモンドにあるとある企業と、インターネット上で好きなアバターを選んでミーティングをするのはどうかと話し合ったことがあります。お気に入りのアバターがあれば、誰もが魅力的に見え、バーチャルライフの方がリアルより楽しくなるかもしれませんからね。

具体的に技術に落とし込んで考えてみると、このメタバース体験を提供するために必要な技術は、レンダリングと顔認識を行う非常に高い計算能力を持ったシステムです。その一方で、NXP社の技術では、エネルギー効率の良いデバイスで、検出タスクを非常にうまくこなすことができます。デバイス自体も親指の爪ほどの大きさで冷却の必要もありません。つまり、エンドユーザーよりも多くの知性と感情を持つ完全な自律システムではなく、厳密で正確な検出が可能なAIシステムによってメタバース体験を実現するのです。もちろん、この種の電子機器を携帯機器やノートパソコンなどに搭載することも現実的になってきています。 このリアルと仮想現実の二つの世界の間の障壁のない移行を当社では現在進行形で進めています。技術的には、半導体技術、フレームワーク、そして特にAIシステムが技術の転換期にあると言えるでしょう。

ヤン なるほど。AIもより優れた予測行動などを可能にし、私たちが実際にコミュニケーションをとる方法も変化しつつあるのですね。きっと、この技術的な動きは仮想現実世界の第2の波の一部であり、同様にメタバースの移行にとって重要な流れとなることでしょう。

起業相談はGaiax STARTUP CAFE!

NEXTAパートナー企業の、株式会社ガイアックスは社会課題解決事業をサポートしているスタートアップスタジオです。
ガイアックスの実施しているSTARTUP CAFEでは、「ビジネスアイデアはあるけど次のステップがわからない」、「そもそも自分のアイデアの価値を知りたい」といった相談を無料で受け付けています。
事業相談はもちろん、良い事業案にはバックオフィス支援から出資まで実施しています。
起業を考えている方は年齢に関わらずお気軽にご相談ください!

XTC JAPAN
第2の仮想世界「メタバース」へ。90年代から現在までの投資とテクノロジーの世界
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XTC 2022 ASEAN-Korea Regional Competitionにて、XTC創設者のヤン・ソンとビル・タイは、XTCのボードメンバーでもありNXP社のCTO ラース・レーガーとともに、パネルディスカッションを開催しました。テーマは「パーパス・ドリブンの技術革新を通じて、より良い世界を実現するため」。今回はそのときの映像を元に、XTCが今後テクノロジーの新時代にどのように発展していくのか「メタバース」を実現する具体的な技術をお話しするとともにご紹介します。

※Youtubeでも「XTC 2022 ASEAN-Korea: Keynote by Young Sohn & Panel Discussion」の題名でこちらの記事の元となった動画が閲覧できます。

記事の登場人物

young

Young Sohn(ヤン・ソン)
Walden Catalyst Ventures 創業者・マネージングパートナー、Harman international industries 取締役会長、元サムスン電子株式会社 代表取締役社長 兼 最高戦略責任者、カリフォルニア大学イノベーションカウンシル アドバイザー。Extreme Tech Challenge (XTC)共同設立者。

シリコンバレーの起業家であり、世界をより良く変える可能性を秘めたビジネスの構築と新技術の育成に情熱を注いでいる。直近では、サムスン電子の社長兼最高戦略責任者を務め、グローバルなイノベーション、投資、新規事業創出の戦略を主導し、80億ドルでのハーマン買収の陣頭指揮を執った。シリコンバレーの上場企業2社でCEOを務めたほか、Arm社、Cymer社(ASML)などで取締役を務める。CEOおよび取締役としてのリーダーシップのもと、PLX Technologies、Synnex Technologies、Inphiを上場させる。また、Berkeley Lights、Fungible、Zoom、Graphcore、TTTech Autoなど、革新的な企業のシード投資家でもある。また、未公開株式会社Silver Lake Partnersのシニアアドバイザー、Cadence社の取締役を務める。

Bill Tai(ビル・タイ)
エンジェル投資家、Charles River Ventures 名誉パートナー、カーティン大学非常勤教授。Extreme Tech Challenge(XTC)共同設立者。

1991年からベンチャーキャピタルとしてスタートアップに出資し、22社を上場させる。また、創業期に出資した8社の上場企業にて取締役を務める。半導体設計者としてキャリアを開始し、半導体産業の巨大企業TSMCに従事。イリノイ大学にて電子工学学士課程を優等で修了、ハーバード大学でMBAを取得。Treasure Data(ARM/Softbankが買収)、IPInfusion.com(東京証券取引所:4813)、iAsiaWorks(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレー経由でIPO)を共同設立し、Hut8 Mining(NASDAQ:HUT)の取締役会長も務める。Canva、Color Genomics、Class.com、Dapper Labs (Cryptokitties / NBA Topshot)、Safety Culture、Tweetdeck/Twitter、Zoom Videoを発掘し、創業期から伴走するシード投資家の一人。ACTAI Globalの共同設立者。環境保護・起業による経済力向上を支援するAthletes Conservationists Technologists Artists & Innovatorsを運営する。

Lars Reger(ラース・レーガー)
NXP 副社長 兼 CTO。

Rheinische Friedrich-Wilhelms-Universitätで物理学の学位を取得し、ロンドンビジネススクールでMBAを取得。1997年にプロダクトエンジニアとしてSiemensSemiconductorsでキャリアを開始。Infineon Technologies にて、プロセスおよび製品エンジニアリング部門の責任者、モバイルシステムチップのプロジェクトマネージャー、IP管理のディレクションを担当。Continentalでは、コネクティビティビジネスユニット内のビジネス開発と製品管理を担当。2008年NXP入社、2012年自動車部門の最高技術責任者に就任、2018年12月NXPのCTOに就任、テクノロジーポートフォリオ全体を担当している。NXPでは、自動車、インダストリー4.0、IoT、モバイル、コネクティビティ、インフラストラクチャに重点を置いた市場での新しいビジネス活動と研究開発の管理を務める。

コンピューティング第5の波、テクノロジーの新時代へ

ヤン 今回は、コンピューティング第5の波の領域についてお話しします。テクノロジーをどのように使うと、より多くのユーザーにとって役立つものが生み出せるのかということについてです。例えばAIを使えば、より安価な技術や分析を可能にすることができるでしょう。いままでの資本市場は、私たちに利益と環境汚染をもたらし、同時にテクノロジーを飛躍的に進化させてきました。テクノロジーは人間に驚きをもたらし、それは人類をより良く進化させる善なるものになるのだと信じています。そしてこの考えが、現在私の投資パートナーでもあるベンチャーキャピタリストのビル・タイとともに、Extreme Tech Challnege(以降、XTC)を世界的に拡大する理由の根底にあります。起業家たちを巻き込み「テクノロジーを駆使し、イノベーションを加速させる」。そうやって、このXTCの重要なミッションに参加してもらうことにつながっているのです。

テクノロジーを駆使し、イノベーションを加速させる「XTC」

ヤン 私たちは、国連事務総長Ban Ki-moon(パン・ムーン)の支援を受け、2019年にXTCの第1回となる地区大会を開催しました。約2年の活動で、我々は19以上の受賞者と113地域のファイナリストを生み出してきました。

今年、グローバルで3750社の中から優勝した2社のうちの1社は、Dot inc.(ドットインク)という韓国のスタートアップです。彼らは2019年の第1回韓国大会で初出場し、2020年の第1回韓国大会で優勝、XTCグローバルファイナルに進出し、グランプリを獲得しました。

この企業のCEOであるEric King(エリック・キング)は、触覚表示技術を使って視覚障がい者にサービスを提供し、デジタル・モバイル・クラウド機能を使えるようにすることを個人的な使命としています。彼らの技術は、韓国では釜山地下鉄や教育省などにも展開されており、韓国の大統領の前でプレゼンテーションするほど注目されています。

XTCは、ドットインクのエリックのような優れたイノベーターに、世界の主要な投資家との接点やメディア露出の機会を提供しています。そして、素晴らしい技術を世に生み出す起業家をさらに輩出することができるのだと信じています。

昨年のグローバル大会優勝者は、カナダのトロントから600万ドルの契約を獲得しました。この企業は、バイオマテリアル技術を使い廃棄物や有毒物質の代替品を提供しています。昨年9月のXTC ASEAN-KOREAの受賞企業の1つであるThree Billion(スリー・ビリオン)は、今年の春に3000万ドルの資金調達を行いました。ユーラシア大陸の市場における、このような革新的なスタートアップを世界に紹介し、他の起業家たちの模範となり、インスピレーションを与える場としてもXTCは機能しています。

インテルやサムスン、マイクロソフトといった企業スポンサーや、ベンチャーキャピタルの方々は、いま「持続可能性」や「社会的インパクト」に強い関心を持たれています。彼らに対しても、スタートアップのアイデアからメジャーなアイデアまで、新たなイノベーションに向かう架け橋となることができるでしょう。

世界中の視線が変化を見せている「社会的インパクト投資」

ビル 世界の企業は持続可能性の課題を受け入れる準備ができていると思います。多くの人は、パーパス・ドリブンのスタートアップは投資対象としてふさわしくないと考えているようですが、その考えは変わりつつあるでしょう。

私がベンチャーの世界に入ったのは、1991年のことでした。まだハードウェア中心の時代です。90年代には、サステナビリティや環境にプラスになる投資をすると言うと、当然損をすると思われ、資本を追うのも難しく、資金提供に値し興味深い事業を見つけるのも大変なものでした。また当時、Kleiner Perkins(クライナー・パーキンス)のような先見の明のある投資家も、持続可能な環境関連に焦点を当てたファンドを設立していましたが、この種のビジネスがまだ資本集約的だった時代、社会課題解決を試みた人々の投入したその資金の多くは、ソーラー企業に注ぎ込まれていたのです。

世界の企業が持続可能性の課題を受け入れる準備ができたことのもう一つの理由は、過去40〜50年にわたり私たちが地球を汚染し、さまざまなものを破壊してきたことを憂慮する社会的風潮があります。それが私たち人類が取り組まなければならない最重要課題に迫っている理由です。国連は持続可能な開発目標の設定について声高に主張しており、その流れにそって、このXTCを設立しました。

IoT、スマートコネクトの世界で起きていること

ラース 各企業もCSRの目標に真剣に取り組んでいるため、お話しいただいた需要が実際に高くあります。人々が気候変動などを憂慮する気運が高まっていることを背景に、当社にも、多くの金融投資家による環境関連の研究開発に対する資金が集まっています。私たちが提供するプロダクトを受け取る側となる顧客の「地球をより良く変えることができるデバイスを買う」といった意識は今後もさらに高まるでしょう。

飛行機など使わずにでも人と面と向かって会話するのを可能にしたビデオ通話と同じような理屈で、当社が提供する電子機器の一部は、二酸化炭素排出量の削減に役立っています。

ヤン それは、スマートセンサーを搭載したパワーマネジメント・チップによって電力を削減できるIoT(Internet of things)製品ですね。ラース氏がCTOを務めるNXP社は、時価総額560億ドルの企業です。サムスンなどのパートナーでもあります。ここ数年、パンデミックにもかかわらず高い成長を見せていますが、CTOといった役割から、どのようなイノベーションがいま起こっているのか、ぜひお聞かせください。NXP社は、どんな未来を描き、どこへ向かっているのでしょうか。私たち投資家が投資すべき対象はどういったものがあるのでしょう。

ラース 業績指標としてではなく、アナリストがポートフォリオや企業の能力に寄せる期待としてNPX社の株価を見てみると、過去10年間で20倍近くになっています。これは、NXP社がスマートコネクテッドデバイスを作るためのほぼ完全なポートフォリオがあり、これらのスマートコネクテッドデバイスが、この地球上の電子機器の次の10年に必要とされるからです。

私たちはいま、オンデマンドの世界から移行しつつあります。 携帯電話でタクシーやピザを注文するようなオンデマンドの世界から、予測し自動化する世界へと移行しているのです。

アナリストは、2025年までにスマートコネクテッドデバイスが500億台、10年後には1,000億台になると予測しています。私たちがいますべきことは、これらのスマートコネクテッドデバイスを、インテリジェントスピーカー、スマートカー、スマート冷蔵庫、スマート製造ロボットなどとつなげた際に、すべて超省エネルギーであるかどうかを確認する必要があるということです。そうでなければ、エネルギー効率の悪いスマートデバイスは、スマートデバイスとは言えませんからね。そして、プロダクトが環境を感知し、クラウドに接続し、スマートなアドバイスを考え、みずから適応することが求められます。つまり、「感じる」「つなぐ」「行動する」が、すべてのスマートコネクテッドデバイスに求められる要素なのです。

例えば事故を回避するための自律走行車には、完璧なレーダー・センシングが必要です。NXP社のコア・ドメインの一つである高解像度レーダーは、超低消費電力のエネルギー効率の高いマイクロコントローラで、エネルギー効率の高いスマート・コネクティビティを実現するために、Wi-Fi をベースステーションに接続してからクラウドに接続します。フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェは、当社のバッテリー管理システムを使用しています。これは、NXP社が電気自動車のバッテリー管理において非常に高い精度を持っているためで、この高い精度が、より長い走行距離、住宅用のエネルギー変換といった「スマートコネクティビティ」と呼ばれるものにつながっているのです。つまり、「事故を回避して安全性を高めること、エネルギー消費量を減らすこと、利便性を高めること」これらの三つがスマートセンサーにおける基本的なメガトレンドです。

ヤン 私は半導体業界の出身なので、こういった技術が、単に消費電力の大きいCPUの速度を上げるだけでなく、大きな社会的インパクトを与えるために使われているということがとても嬉しいです。私たちはいまよりスマートなセンシングとデータを作り、その過程で私たちの生活が向上しています。半自動運転やスマートシティなどは、すべてNXP社が貢献している素晴らしい例だと思います。

ビルももともとは半導体の専門家です。私たち二人は一つの財団を設立し、その後、それぞれ別の分野へと発展していきました。ビルと私は20年以上の付き合いで、XTCの設立と運営から、投資を通じてさまざまな企業の立ち上げにも携わってきました。私たちは非常に早い段階からZOOMへ関わり、共に投資も行っています。ZOOMは、私たちの生活に大きな影響を与え、人々のコミュニケーションを向上させたツールの一つです。ZOOMの世界的な広がりは、みなさんもご存じのところでしょう。

スマートフォンが現れた、シリコンの時代。量子の時代にくるものとは?

ヤン ビル、今後どのような企業が登場するのか、またパーパス志向で大きなインパクトを与えることができるのかどうか、どう思われますか。

ビル まず、ラース氏を今回お呼びした背景からお話ししたいと思います。私たちは皆、かつての「シリコンの時代」を経験しています。世界のほとんどの人々にとって舞台裏にあるものでしたから、どんな流れがあったかは多くの人にとって未知のものでしょう。このシリコンの時代に、技術革新が始まり、持続可能な段階へと移行したとき、価値を提供する産業としてめざましい成長を遂げました。 電子を効率的に操ることができるようになったのは、まさにシリコンがあったからだったのです。

シリコンが出てくる前には、電球のようなものを使っていました。電球の束でノートパソコンを作って、ロジックを動かしていたとします。電球が点灯しているときは「1」、消灯しているときは「0」。そのように、かつては巨大な部屋並の大きさの技術は、いまや持ち運べるレベルのコンピュータになりました。電子を動かすことからビットを動かすことへと移行し、それが電話網に忍び込んで、紙切れを吸収できるようになり、ファクスの代わりに電子メールを送るようになり、情報が1つ1つに分割されるようになりました。そして、インフラが普及し、その上で何でも動かすことができるようになり、ビットはいまや分子を表すようになりました。それらのビットは、スクリーンに映し出され、瞬時にリアルタイムで世界のどこへでも行けるのです。

テクノロジーはいまや、シリコン企業数社からコンピュータ企業数社に影響を与え、世界中のすべての人に届く電話回線から、ラース氏が話したIoTデバイスを含むその回線に触れるすべてのものにまで広がり、分子や車や建物のアプリケーションに効率化のレベルを落とし込むことができるようになりました。例えば、電話網が回線交換式からiPhoneへ進化を見せたように、スマートビルディング、教育、廃棄物の削減、食品や製品のサプライチェーンなど技術の進化によってさまざまな場所でさまざまな変化が起こっています。

電話するときは、電話交換手がいて、受け手側に向けてケーブルをつなぎ合わせるというような昔の映像を見たことがある方もいるのではないでしょうか。電話で声を届けるためには、文字通り当時は壁にプラグを差し込んで、異なる局をつなぐための電線の束があったのですが、そのような電線の束は、さらに細かく切り刻まれて、たくさんの通話を多重化した分子たちに置き換わりました。そう考えると、当時と比較すると技術の力によって大きく効率化がなされ、かなり便利な時代を我々は生きているということがわかりますよね。

ヤン 当時の電子技術は、実に素晴らしい革新だと思います。現代では、原子と呼ばれる新しい分野があります。 量子コンピューティングは、これまでとは異なる、より高度なコンピューティングを可能にするものだと言われています。 従来のコンピューティングでは不可能なアプリケーションで、より高いパフォーマンスを発揮することが可能です。

量子コンピュータのような新しいパラダイムは、基本的に1と0の2進法です。量子コンピューティングになると、その間に多くの量子ビットが入ってきて、非常に複雑な連立方程式を実行できるようになり、従来では不可能だった問題を解決できるようになります。

その間に多くの量子ビットを得て、複雑な連立方程式を実行できるようになり、問題を解決できるようになります。量子コンピュータのような新しいコンピューティングパラダイムは、より大きく複雑な問題への挑戦を、低い消費電力で実現できる可能性があります。量子領域は、非常に注目している新しい分野でもあります。この新しいアプローチは、将来的に計算の方法すらも変えるでしょう。

XTCは、産業を変革する画期的な技術革新を提供するスタートアップのための最大のマーケットでもあります。7月22日に開催されたコンペティションでは、約100カ国から3,700件を超える応募がありました。ラース氏はその審査にも努めていらしたわけですが、今後最も期待する新技術は何でしょうか。クリーンテック、フィンテック、スマートシティ、モビリティなど、さまざまな分野での例を挙げてください。

ラース 先ほどあったビル氏の話のように、時代が電話からIoTへ変化していることに加え、ロボティクス技術もさらに発展すると予測しています。

現在、自動車のイノベーションの95%は、スマートエレクトロニクス、コンフィギュラブルエレクトロニクス、言い換えればプログラム可能なエレクトロニクス、ロボティクスがあります。特にヘルスケアの分野で、スマートロボットが人々の能力をカバーするためにどのようなことができるかということに興味をそそられています。私は物理学の勉強をする傍ら、数年間医学の勉強もしてきました。若いエンジニアの頃は医療機器を作りたいとも思っていたのです。これからはXTCを活用し、再びその分野に全力で取り組んで行きたいですね。

テクノロジー新時代、成功するスタートアップの3つの特徴

ビル このコンテストから生まれたものには、素晴らしいものがたくさんありますね。しかし、一般的に言えば、問題解決にテクノロジーを応用することで、私たち人類は進歩することができるのです。例えばZOOMのような、成功している技術系のスタートアップを考えてみると、共通点が3つあります。1つは、使用する際の摩擦を減らすために技術を応用できていること、2つ目は、非常に再現性の高い技術を使用していること、3つ目は、信じられないほどの拡張性を持つバックエンドを備えていることです。

2020年のXTCの決勝戦には7社の企業が参加しました。その中でも2社、素晴らしい企業がありました。特に、Microgen(マイクロジェン)という企業には、目を見張りました。小さなバクテリアの溶液に植物の種を浸すと、植物が成長するにつれて根がコーティングされ、重金属やその他のものをろ過してくれます。そして、結果として土壌の浄化を可能にするのです。50年、100年前から、私たちは工業化された経済社会の中で、生産性のためにさまざまなことを行ってきた結果、食物を育てる土地を文字通り汚染し、毒していることにまったく気づいていませんでした。

ウォールマートもガーバーも、カドミウムや重金属が食品に含まれているとして訴えられています。これは、赤ん坊の脳障害を引き起こす原因となるものなのです。マイクロジェンはそれらの問題を大規模に解決することができます。

そしてもうひとつは、コロンビアにあるTOMi(トミ)という企業です。いまや誰もがカメラやデバイスを持ち、Wi-Fiやブルートゥーススピーカーなどを通じて携帯電話に接続できるようになりました。彼らの技術を利用すると、24時間、授業を管理し、子どもたちを採点することが可能になります。学校の仕事のやり方を完全に変えるもので、小さなハードウェアデバイスを作ってこれを実現しています。このサービスは教育用Canvaのようなもので、教師陣も毎月2万人のペースで増加しています。

このようにシリコンバレーでは見たこともないようなものが、このXTCから生まれてきているのです。

ヤン 素晴らしい例ですね。2021年の受賞者をはじめ、多くの企業にも当てはまると思います。その中でも、注視すべきは、先ほどお話しした韓国のドットインクという会社、そしてもう一つは、オーストラリアの会社でHillridge technology(ヒルリッジ・テクノロジー)があります。衛星からの天気予報を見て、直前の災害の可能性に基づき、「Insurtech」と呼ばれる低価格帯の保証を提供しています。これによって直前の災害を想定し、リスクマネジメントを行うことができるのです。データ、AI、予測分析が物事の行方を教えてくれるので、非常に拡張性のあるイノベーションの一例です。このビジネスは、過去に洪水やその他の自然災害の被害にあって利益を得られなかった多くの小規模農家にも適用できるかもしれません。

私たちは、このように起業家たちが素晴らしいアイデアを共有していることを目の当たりにできて、嬉しく思っていますし、とても光栄に思っています。私たちの仕事は、これから生まれる素晴らしいイノベーションを生み出している起業家を教育することです。そして他のスタートアップにもこのコミュニティに参加してもらうことができると信じ、同時にこの活動を楽しんでいます。

シムシティ、セカンドライフ、ZOOM…テクノロジーの力で時代ごとに解像度を高めるメタバースの世界

ヤン いま私自身も関心が高まっているメタバースの領域について話題を少し変えてみたいと思います。韓国は20年前、ある意味でオンライン仮想世界「セカンドライフ」をリードしていました。そして、人々が自分自身を表現するための遊び場を提供することができていたのです。 メタバースは、まったく新しい体験、新しい経済、新しい経験を生み出すものです。人々は喜んでこの仮想世界に参加し、他の友人たちと出会い、そのコミュニティ内で遊ぶことができます。

時代をさかのぼると、1990年代のシミュレーションゲーム「シムシティ」を思い起こさせるものでもありますが、メタバースについて何かコメントはありますか?

ビル そうですね。フェイスブックがオキュラスリフトを使ったメタバース製品を発表する3日前のことです。ちょうど2週間前の日曜日、実はZOOMのCEOであるEric S. Yuan(エリック・ユアン)と一緒にいたんです。私たちは彼の子供たちをサーフィンのレッスンから連れ出すために一緒に出かけていました。

エリックはその数週間前、スナップチャットからダウンロードできる写真を添えてツイートを投稿をしていたんです。スナップチャットには何種類ものフィルターがあり、そのフィルターを通してアニメなどのキャラクターを選び、ZOOMにも参加できます。その時の会話の中で、エリックにこんな話をしました。「今日、どれだけの会議があるか知らないけれど、1億から数億の会議がZOOM上で開催されている。だからZOOMはもはやメタバース空間なんだよ。」と。実はいまや誰もが、すでにアニメキャラクターとしてもこの仮想空間に入ることができるのです。a世代の何億人もの子供たちは、ロブロックスやマインクラフトなどですでに何年もの時を過ごしています。自分のアバターでサーバーにアクセスすることは、夏休みには1日のうち3、4時間にもなるのですから、人類がこれからメタバースに移行すること自体は、とても自然な流れなのです。

20年前のセカンドライフと同様に、ここにはすでに経済があります。2003年にセカンドライフという仮想世界で、私はアラン・グリーンスパン・ゴーレムになりきって、仮想通貨の概念リンデンドル(L$)を導入しました。そのため、ビットコインが始まるずっと前から、すでに仮想通貨にたどり着いていたのです。

ニール・ステフェンソンのSF小説「スノー・クラッシュ」というものがあります。フィリップ・ローズデールがセカンドライフを設立する際に、彼はその「スノー・クラッシュ」を現実の世界で作ると言っていました。私はそれは難しいのではと言いましたが 彼はやり遂げてみせたのです。

そして、現代で何が起こっているかというと、第2の仮想世界が始まっていて、現実世界のためのデジタルインターフェースがあり、抽象化された分散型サーバーの集合であるロブロックスをはじめとしたアプリケーションやプラットフォームが出現しているのです。もはやこれは、すでに私たちはメタバースの中にいるといってもいいものでしょう。そして、それは、いままでよりももっとクレイジーで楽しいものになるはずです。

仮想世界 第2の波「メタバース」、それを支える技術

ヤン 私たちはこの旅の始まりにいるんですね。ビル氏は、ロブロックスなどのアプリケーションについても話に触れましたが、その背後にある技術については、ラース氏からもお話をお聞きしましょう。

クラウドとモバイル、そしてユーザー・インターフェースの間を可能にしているものについて、その背後にあるもの、推進しているものについてコメントをお願いします。このメタバースを可能にするためには、非常に多くの物理学的な要素が必要とされますが、それが広く認知されていないように感じます。その点については、いかがでしょうか?

ラース まず、私は自宅では普段3人のヘビーゲーマーの父親でもあるんです。スポーツといったらリアルでするものという感覚が個人的にはあるのですが、彼らはスポーツひとつとっても、現実世界のスポーツではなく、メタバース上へアクセスし、そこでプレイする選択肢も持ち出します。

何年か前に、レッドモンドにあるとある企業と、インターネット上で好きなアバターを選んでミーティングをするのはどうかと話し合ったことがあります。お気に入りのアバターがあれば、誰もが魅力的に見え、バーチャルライフの方がリアルより楽しくなるかもしれませんからね。

具体的に技術に落とし込んで考えてみると、このメタバース体験を提供するために必要な技術は、レンダリングと顔認識を行う非常に高い計算能力を持ったシステムです。その一方で、NXP社の技術では、エネルギー効率の良いデバイスで、検出タスクを非常にうまくこなすことができます。デバイス自体も親指の爪ほどの大きさで冷却の必要もありません。つまり、エンドユーザーよりも多くの知性と感情を持つ完全な自律システムではなく、厳密で正確な検出が可能なAIシステムによってメタバース体験を実現するのです。もちろん、この種の電子機器を携帯機器やノートパソコンなどに搭載することも現実的になってきています。 このリアルと仮想現実の二つの世界の間の障壁のない移行を当社では現在進行形で進めています。技術的には、半導体技術、フレームワーク、そして特にAIシステムが技術の転換期にあると言えるでしょう。

ヤン なるほど。AIもより優れた予測行動などを可能にし、私たちが実際にコミュニケーションをとる方法も変化しつつあるのですね。きっと、この技術的な動きは仮想現実世界の第2の波の一部であり、同様にメタバースの移行にとって重要な流れとなることでしょう。

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