
2026年3月3日に開催された、グローバル課題を技術で解決するスタートアップ・コンテスト「XTC JAPAN 2026」。数多くの有望なディープテック企業がひしめく中、見事優勝に輝き、日本代表として米国シリコンバレーでの世界大会への切符を手にしたのがフィジオロガス・テクノロジーズ株式会社です。
同社が開発するのは、これまでの常識を覆す「給水不要の在宅血液透析装置」。患者の生活を激変させるだけでなく、数兆円規模の経済インパクトを生み出す可能性を秘めたその事業の魅力を、白熱したピッチとQ&A、そして審査講評から紐解きます。
「週3回、1回4時間の通院」を過去のものに

「クリニックに今、患者さんが1回4時間の治療のために週3回通っています。そのような生活を過去のものにします」
代表取締役の宮脇一嘉氏の力強い宣言からピッチは始まりました。
従来の透析治療は、患者の生活や就労に大きな制限を強いてきました。では、自宅で透析を行えばいいのではないか?しかし、既存の在宅透析装置は、給排水のための大がかりな水道配管工事や、日常的な洗浄・メンテナンスが必要であり、導入ハードルが極めて高いのが実情でした。
フィジオロガス・テクノロジーズはこの課題に対し、独自の「吸着フィルター」を用いた「透析液再循環ユニット」を開発しました。透析液をシステム内で浄化して再使用することで、これまで数百リットル必要だった水道水を「全くの不要」にしたのです。これにより、配管工事や日常メンテナンスが不要な、コンパクトで簡単・安全な在宅用装置を実現しました。
患者の「自由な時間」が、数兆円の社会的インパクトを生む

この技術がもたらす価値は、医療機器の小型化だけにとどまりません。同社が初期ターゲットに見据えるのは「就労年齢層の患者」です。
これまで通院のために働くことを諦めざるを得なかった患者が、自分の好きな時間に在宅で治療を行い、職場に復帰できるようになります。これにより生み出される経済的インパクトは、日本で年間約5,000億円、米国で約4.1兆円(約270億ドル)にも上ると試算されています。
さらに宮脇氏は、その先の巨大なビジョンも語りました。 「我々の給水不要の血液透析装置は、今現在水インフラがなく、透析治療にアクセスできていない患者さんに対しても展開が可能になります。これは現在の世界透析市場約15兆円を2倍にする可能性があると考えています」
プロの投資家を唸らせた、緻密な戦略とQ&A

ピッチ後のQ&Aでは、第一線で活躍するVC審査員陣から、市場開拓に関する鋭い質問が飛び交いました。
日本と米国で異なる市場構造へのアプローチについて問われると、宮脇氏は明確な戦略を提示しました。 日本では、同社のCTOであり、日本透析医学会の理事等も務める工学側のトップオピニオンリーダー(KOL)である小久保謙一氏の強固なネットワークを活用。一方米国では、在宅透析を推進しているカリフォルニア州などを足がかりに、現地のKOL医師と連携していく方針を語りました。
また、医療機器として気になる「メンテナンス不要」の真意について問われると、「血液や液体が触れる部分は全てディスポーザブル(使い捨て)になっているため、患者さんがするメンテナンスは一切ないという意味です」と回答。半年に1回の装置自体のメンテナンスも、小型であることを活かして代替機と交換し、工場で一括して行うという、徹底して患者負担を減らすオペレーション構想を明かしました。
審査員講評:社会経済的インパクトと世界への期待
ハイレベルな議論の末、フィジオロガス・テクノロジーズを優勝に選出した理由について、審査員を務めた井上智子氏は次のように講評しました。

井上智子
Red Capital株式会社 代表取締役マネージングパートナー
審査の中では本当に議論が白熱しました。どこも素晴らしいテクノロジーと社会的インパクトを持っている会社が多い中で、やはり、透析患者で本当に今働けないような方々が、ちゃんと毎日働けるようになるという、その社会経済的なインパクトの大きさが評価されました。米国やグローバル市場での展開を、XTCのネットワークも活用して手厚く支援したいと本当に応援しています。
医療機器で世界を目指す覚悟

表彰式で優勝パネルを受け取った宮脇氏は、力強くこう締めくくりました。
「日本の医療機器開発は非常に難しく、どうしても世界を見なければならない領域です。(昨年に続き)医療機器を手がける私たちが選んでいただけたことを非常に光栄に思います。私たちの装置はまだまだ発展途上で、これから開発を進めていく段階ですので、皆様からの強力なご支援が必要となります。今回このように受賞させていただき、世界大会に行かせていただけることを大変嬉しく思います。ありがとうございました」
患者のQOL向上と、巨大な経済効果を両立させるフィジオロガス・テクノロジーズ。彼らの次なるステージは、2026年11月に米国シリコンバレーで開催されるXTC世界大会です。日本発のディープテックが、世界の医療インフラをどう変革していくのか、その挑戦から目が離せません。



